CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは?―「保険」が世界を揺るがすリスクに変わった歴史と今

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はじめに:最近よく耳にする「CDS」って何?

2025年に入り、「CDSスプレッドが上昇している」というニュースを目にする機会が増えました。特にドイツ・フランス・日本のCDSが上昇傾向にあるという報道は、金融関係者でなくても気になるところです。


出典:テレ東BIZ「モーサテ」

でもそもそも、「CDSって何?」という方も多いのではないでしょうか?
この記事では、CDSの基本的な仕組みから、**2008年の世界金融危機においてCDSが果たした“黒い役割”**まで、順を追って分かりやすく解説していきます。


CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは?

債券の信用リスクに備える「保険」のようなもの

CDSは「クレジット・デフォルト・スワップ」の略で、ざっくり言えば、ある国や企業が債務不履行(デフォルト)になった時のリスクをカバーする保険のような金融商品です。

たとえば──
あなたがギリシャ国債を大量に保有していて、もしギリシャが破綻したら…と不安になったとします。
このとき、「CDS契約」を買っておけば、ギリシャが本当にデフォルトした際に保険金のような補填が受けられる、という仕組みです。

誰が使っているの?

CDSは、主に**機関投資家(保険会社・銀行・年金基金など)**が利用します。債券投資の信用リスクを管理するために、CDSを「保険」として活用しているのです。

一方、個人投資家がCDSを直接取引することはほとんどありません。契約単位が大きく、市場も店頭取引(OTC)が中心で、アクセスしづらいためです。


CDSが話題になる理由:各国でCDSが急上昇中

2025年現在、複数の国でCDSスプレッド(保険料)が上昇しています。これはつまり、市場がその国に対して「デフォルトリスクが高まっている」と感じていることを意味します。

例えば最近では、以下のような傾向が見られます:

  • ドイツ:政治不安や景気減速懸念で上昇
  • フランス:財政赤字拡大への警戒
  • 日本:国債発行残高の増加や金利上昇の影響
  • アメリカ:債務上限問題や財政赤字懸念

こうした背景を踏まえて、筆者自身も「CDSとは何か?」「なぜ今これが注目されているのか?」という疑問を持ち、調べていく中で見えてきたのが、**過去の“CDSショック”**でした。


私の疑問:CDSは保険のはずなのに、なぜリスクになるのか?

調べ始めたときは、「CDSって信用リスクに備える“安全のための道具”なのでは?」という印象でした。
しかし、2008年の世界金融危機をたどっていくと、CDSが“リスクそのもの”に変化していたことがわかってきたのです。


2008年の世界金融危機とCDSの連鎖

サブプライムローンの拡大と金融商品の複雑化

当時のアメリカでは、返済能力の低い人向けの「サブプライムローン」が大量に組まれていました。
このローンをまとめて証券化した商品(MBS:住宅ローン担保証券)が世界中の投資家に販売されました。

その際、これらの証券には「もしもの時の保険」としてCDSがセットされることが多く、CDSの利用が急拡大していきました。

実は、CDSは保険ではなかった?

問題はここからです。

CDSは、実際に債券を持っていなくても購入できるため、まるで「他人の家の火災保険に賭ける」ような使われ方をされていました。

そして、サブプライムローンが破綻し始めたとき、
CDSによって保険を請け負っていた金融機関が、補填義務に追われてパンクし始めたのです。

AIGの破綻危機と世界の連鎖

その象徴が、アメリカの保険大手AIG
AIGは数兆ドル規模のCDS契約を抱えており、
サブプライムの崩壊に伴って莫大な支払いを迫られ、破綻寸前に。
最終的にはアメリカ政府が公的資金で救済する事態に。

これが引き金となって、CDS市場全体の信用も崩れ、世界中の金融機関に連鎖的な資金ショートと信用不安が広がっていったのです。


CDSが引き起こした「制度外リスク」の教訓

この一連の流れで見えてきたのは、CDSが持つレバレッジ的リスク不透明性の問題です。

問題点内容
債券を持たなくてもCDSを買える投機的な取引が加熱し、実態を超えたリスクが市場に拡散
同じ債務に複数のCDS契約1つの債務に対し、何十もの“保険請求”が発生する
店頭取引(OTC)で透明性がない誰がどれだけCDSを抱えているか分からず、不安が拡大

危機後に進んだCDS市場の規制

世界金融危機をきっかけに、CDS市場は一定の規制が導入されました:

  • 取引の一部を清算機関(クリアリングハウス)経由に変更
  • CDSの売り手に**資本規制(自己資本比率)**を課す
  • CDS残高の開示・報告義務化

とはいえ、今も完全に安全な仕組みになったわけではないという指摘もあります。


おわりに:なぜ今、CDSに注目すべきか?

現在、再びCDSスプレッドが上昇し、市場の不安を映し出しています。
その背景には、各国の財政不安や政治リスク、インフレ・金利上昇の影響などが絡んでいます。

2008年のようにCDSが再び市場の連鎖不安の「導火線」となるのか──
それとも、今度こそ“保険”としてうまく機能するのか。

CDSは決して見過ごせない市場のリスク指標として、私たちも意識しておきたいテーマです。

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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