📌 トランプ政権「相互関税」に重大な“計算ミス”?~日本・ベトナムなど各国に広がる過大評価の実態を検証

2025年4月、トランプ政権が打ち出した「相互関税」政策が、国際的な波紋を広げています。表向きは「貿易赤字の是正」と「公平な通商の実現」を掲げるものでしたが、実際に発表された関税率には重大な計算ミスがあったと、複数の専門家やシンクタンクが指摘しています。

特に、日本やベトナム、中国、EUなど多くの国に対して発表された関税率が、実際に用いるべき経済モデルによる算定値の最大4倍にも膨れ上がっていたことが再計算で明らかになりました。


📐「相互関税」とは?~シンプルすぎたその数式

トランプ政権が発表した「相互関税(Reciprocal Tariff)」の基本的な仕組みは、以下の数式に基づいています。

関税率 = 米国の対当該国貿易赤字 ÷ 輸入額

この式で得られた比率がそのまま、あるいは補正された上で関税として適用されます。例えば、日本に対しては得られた比率の**「半分」が関税として適用され**ました。

この一見簡潔な算定方式ですが、政権はこの式に**価格転嫁率 φ(ファイ)**という係数を設定しており、その値を0.25としたことが重大な誤りであるとされています。


🇯🇵 日本に対する「24%」関税、実際は「10.9%」が妥当?

政権は、日本からの輸入に対して24%の関税を課すと発表しました。この数値は以下のような計算に基づいています。

  • 2024年の対日貿易赤字:684億ドル
  • 日本からの輸入額:1,482億ドル
  • 赤字 ÷ 輸入額 ≒ 46.16%
  • 「日本の実質的な関税率は46%」と政権が仮定し、その半分(23.08%)を関税として適用
  • 四捨五入で**24%**に

この「半減」の根拠について、政権は日本の非関税障壁(例:自動車安全規制や農産品関税)を含めて実質的な関税率を46%と評価したとされています。しかし、その具体的な根拠は明示されていません。


🧮 再計算の結果:本来は「10.9%」が妥当だった

米アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)の経済学者チームは、この関税率が経済モデルの係数設定ミスにより大幅に過大評価されたと指摘しています。

特に問題視されたのが、政権が設定した係数φ=0.25(小売価格への転嫁率)です。本来は輸入価格への転嫁率(φ≒0.945)を使用すべきであり、政権は誤った変数を引用していたと、シカゴ大学のブレント・ニーマン教授も批判しています。

正しい計算式:
関税率 =(貿易赤字 ÷ 輸入額)×(φ ÷ ε)
※ε=輸入需要の価格弾力性(通常4)

代入:
(684 ÷ 1,482) × (0.945 ÷ 4) ≒ 0.4616 × 0.23625 ≒ 約10.9%

結果:日本への関税率は、政権発表の24%の半分以下が妥当であり、一律10%の最低関税で十分だったと結論づけられます。


🇻🇳 ベトナムの「46%」関税も“誤算”?~各国で過大評価が横行

ベトナムに対しては、46%という高い関税率が発表されましたが、これも同様に過大評価された数値であると判明しています。

✅ 再計算結果(AEI・Axios)

  • 貿易赤字:約114億ドル
  • 輸入額:約249億ドル
  • φ=0.945、ε=4
    → (114 ÷ 249) × (0.945 ÷ 4) ≒ 約12.2%

このように、ベトナムに対する関税も、実際には発表値の約1/4に相当する水準が妥当とされています。

なぜベトナムが注目されたのか?
  • 赤字比率が高く、乖離が目立った
  • 中国の代替供給地として戦略的に注目されている
  • 政治的圧力の対象として象徴的に扱われた可能性もある

🌍 他の主要国も再計算では“14%未満”が妥当

AEIやニーマン教授の分析によれば、ベトナム以外の多くの国に対しても関税率は大きく過大に設定されていたことが確認されています。

国名政権発表再計算(推定)備考
中国34%約8.5%赤字:約2,950億ドル/輸入:約4,399億ドル
EU20%約5%EUの実効関税率は約2.7%(Cato Institute)
カンボジア49%約12%赤字比率が誇張された例
ベトナム46%約12.2%実際は最低基準で十分
日本24%約10.9%本来は一律10%で妥当

いずれも共通して、政権が使用したφ=0.25という係数設定が、関税率をおよそ4倍に引き上げる要因になったとみられます。


🧠 誰が誤りを指摘したのか?~専門家と信頼情報源の分析

この計算ミスの疑いを最初に分析したのは、**保守系シンクタンク「AEI」**のケビン・コリント氏とスタン・ヴューガー氏です。

彼らは、「この計算式は経済的根拠が乏しく、使用された係数も間違っている」と厳しく批判。さらに、**USTRが引用した研究論文の共著者であるブレント・ニーマン教授(シカゴ大学)**も、「政権は我々の研究から誤った変数を使っており、算定結果が本来より4倍に膨らんでいる」と公に批判しました。


🏛 政権の対応:「小売価格転嫁率を意図的に使用した」

一方で、政権側はこれらの指摘に対して計算ミスを認めておらず、次のように反論しています。

  • ホワイトハウス高官の説明:「我々の式では小売価格への転嫁率を使用しており、消費者行動を反映したモデルだ」
  • トランプ大統領のコメント:「経済への影響は想定内であり、時間が経てば回復する」

つまり、政権は「φ=0.25」の使用を**“意図的な設計”と主張し、誤りとは認めていない**のが現状です。


🧾 非関税障壁の実態:日本への主張は妥当か?

政権は「日本の非関税障壁が高い」と主張していますが、以下の点については検証が必要です。

  • 自動車規制:日本は国連基準(UNECE)を採用しており、米国車が排除されているわけではない(欧州車は広く流通)。
  • コメの関税:WTO最低アクセス枠では約77万トンが無関税で輸入可能。追加輸入分に課される関税(341円/kg)は、「700%の関税」という主張とは一致しない(出典:Reuters、2025年4月3日)。

これらの事実からも、非関税障壁の「46%」という設定に客観的な裏付けはないと考えられます。


✅ 結論:政策の信頼性は「数式の正確性」にかかっている

トランプ政権の「相互関税」政策は、一見すると貿易の公平性を追求するように見えますが、その根拠となる計算式に明確な誤りが含まれていたことが、複数の信頼性の高い情報源から明らかになっています。

  • 日本、ベトナムを含む多くの国で関税率は約4倍過大評価
  • 政権の計算に用いられた係数 φ=0.25 は誤った設定
  • 専門家とシンクタンクによる再計算では、すべて14%未満が妥当
  • 政権は現時点で修正に応じていない

今後の国際協議や市場対応において、データの透明性と数理的な信頼性こそが政策正当性の土台となるべきです。


📚 参考文献

  • American Enterprise Institute(2025年4月4日)
    「President Trump’s Tariff Formula Makes No Economic Sense. It’s Also Based on an Error.」
  • Axios(2025年4月6日)「Trump tariffs based on massive error」
  • Brent Neiman, “Why Trump’s Tariff Math Is a Joke”(New York Times, 2025年4月7日)
  • Cato Institute, “Trade Policy Factbook 2023”
  • Daily Beast(2025年4月6日)
  • Reuters「農林水産省、日本の米関税に関するトランプ氏発言に反論」(2025年4月3日)
  • JAPAN Forward(2025年4月7日)「Why Japan’s Auto Rules Are Misunderstood」
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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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