2026年3月、日本に輸入された尿素の平均価格が前月比17.5%上昇した。1トンあたり9万3070円。中東情勢が原油価格に影響することは広く知られているが、農業用肥料の原料にまで波及している点は見落とされやすい。
尿素は化学肥料の主な原料の一つだ。価格が上がれば、農家の生産コストに響き、時間差を置いて食品価格にも影響する可能性がある。ホルムズ海峡の混乱は、ガソリン代だけでなく、食卓にもつながる問題だ。
なぜ肥料と中東が結びつくのか
尿素は、植物の成長に欠かせない窒素を含む肥料の主な原料だ。米、野菜、果樹など幅広い作物に使われ、農業の現場では欠かせない資材である。一方、日本国内で使われる尿素の97%は輸入に依存している。
尿素は、天然ガスから作られるアンモニアをもとに製造される。そのため、天然ガスが豊富なカタールやサウジアラビアなどのペルシャ湾岸地域は、世界有数の尿素の生産・輸出拠点となっている。国連食糧農業機関(FAO)によれば、同地域からホルムズ海峡を通じて輸出される尿素は、世界全体のおよそ3分の1を占める。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とインド洋を結ぶ海上交通の要衝だ。原油やLNG(液化天然ガス)だけでなく、肥料や化学品の輸送にも使われる。国連貿易開発会議(UNCTAD)は、世界の海上肥料貿易の約3分の1にあたる約1600万トンが、ホルムズ海峡を通過していると指摘している。
日本はアジアから買っていても影響を受ける
日本の尿素輸入先は、主にマレーシアやベトナムなどのアジア諸国だ。中東から直接買っているわけではない。それでも日本の調達価格が影響を受けやすいのは、尿素が国際商品として世界市場で取引されているためだ。
中東からの供給が滞ると、世界中の買い手が代替調達に動く。そうなれば、アジア産の尿素にも需要が集中しやすくなる。結果として、日本がアジアから調達する尿素の価格にも上昇圧力がかかる。
農林水産省も、今回の価格上昇について「ホルムズ海峡の事実上の封鎖に伴って国際的に値上がりしている影響を受けた」との見方を示している。直接の輸入先だけを見ても、国際価格の波及は読み切れない。
肥料価格はどこまで上がるのか
価格の先行きは不確かな部分が大きい。ただ、世界銀行の見通しでは、中東の混乱が長引いた場合、2026年の肥料価格は31%上昇し、尿素については60%上昇する可能性が示されている。
FAOは、ホルムズ海峡周辺の混乱により、1か月で約300万〜400万トンの肥料貿易が滞った可能性があると指摘している。さらに、原油には国際的な戦略備蓄制度があるが、肥料には同じような安全弁が乏しい。供給が乱れた場合、需給を調整しにくいことも価格変動を大きくしやすい。
尿素価格は、原料となる天然ガス価格や輸送コストにも左右される。ホルムズ海峡の混乱は、肥料そのものの輸送だけでなく、エネルギー価格を通じても肥料コストに影響しうる。
農家の負担増が食品価格に届くまでの流れ
肥料価格が上がっても、すぐにスーパーの売り場価格が変わるわけではない。農家の生産コストが増えた分は、次の作付けや収穫期以降に価格へ転嫁されやすく、消費者が実感するまでには時間差がある。
ただし、農林水産省の資料によれば、化学肥料を配合した高度化成肥料では、製造コストのうち原材料費が約6割を占める。今回のような原料価格の上昇は、最終的な肥料価格に反映されやすい構造だ。
加えて、燃料費、物流費、包装資材費なども同時に上昇している場合、農家が吸収できる余地は狭まる。食品価格への反映がすぐに起きるとは限らないが、生産現場への圧力は強まりやすい。
ホルムズ海峡リスクは食卓にもつながる
ホルムズ海峡の混乱は、原油やガソリン代の話として語られることが多い。しかし実際には、農業資材という別の経路でも、食料生産の土台に届いている。
中東リスクは「エネルギー問題」であると同時に、食料の生産コストを動かす問題でもある。ガソリン価格だけでなく、肥料、農業コスト、食品価格までをつなげて見る必要がある。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

