東京ガス、46年ぶり家庭向け基本料金値上げへ 月150円増の背景を読み解く

ガス代の明細に目を向ける機会は、あまり多くない。しかし2026年10月から、東京ガスの家庭向け料金を契約する多くの家庭で、毎月の請求額がじわりと増える。東京ガス株式会社(東証プライム、9531)は、家庭向けガスの基本料金を月額150円引き上げると発表した。消費税増税によるものを除けば、第2次石油危機を受けた1980年以来、46年ぶりの料金値上げとなる。

「また燃料高でガス代が上がるのか」と受け取りがちなニュースだが、今回の値上げの構造は、中東情勢やLNG(液化天然ガス)価格の話とは少し異なる。何が変わり、家計にはどう響くのかを整理する。

目次

今回の値上げで何が変わるのか

東京ガスが発表した内容によると、2026年10月1日の使用分から、家庭向けガスの基本料金を月額150円引き上げる。検針上は2026年11月検針分から反映される形だ。

標準的な家庭として月30立方メートルを使うケースでは、月額料金は5,734円から5,884円へ上がる。増加幅は月150円、年間では1,800円となる。

都市ガスの料金は、大きく「基本料金」と「従量料金」の2本立てで構成される。

基本料金は、ガスをほとんど使わなくても毎月かかる固定的な費用だ。ガス管の維持管理、保安業務、検針、顧客対応など、インフラを支えるためのコストが含まれる。

従量料金は、実際に使ったガスの量に応じて増える部分だ。冬場に給湯や暖房でガスを多く使えば、この部分が膨らむ。

今回引き上げられるのは、主にこのうち基本料金である。つまり、ガスの使用量を抑えている家庭でも、基本料金部分の上昇は避けにくい。

なぜ基本料金を上げるのか

東京ガスが今回の値上げ理由として挙げているのは、主に3点だ。

  • 保安業務などに必要な人件費の上昇
  • ガス管工事や設備維持に使う資材価格の高騰
  • 気温上昇などによるガス販売量の減少

特に販売量の減少は、直感に反して見える。「ガスの使用量が減るなら、会社の経費も減るのではないか」と考えたくなるためだ。

しかし都市ガス事業は、固定費の大きいインフラ事業である。ガス管を都市の地下に張り巡らせ、保安点検や緊急対応の体制を維持し、検針や顧客対応を続ける必要がある。こうした費用は、販売量が多少減っても同じように発生する。

販売量が減れば、維持費を支えるための1件あたり、または1立方メートルあたりの負担は重くなる。今回の基本料金引き上げは、そうした固定費の増加と販売量減少を料金体系に反映する動きといえる。

大阪ガスも料金体系を見直す

料金体系の見直しは東京ガスだけではない。大阪ガス株式会社(東証プライム、9532)も、2026年10月1日から新たな標準メニュー「一般料金S」を新設すると発表している。

大阪ガスの場合、現行の「一般料金」は2026年9月30日で新規申込受付を終了し、10月1日から新たな標準メニューとして「一般料金S」を設ける。新メニューは、現行の一般料金より基本料金を引き上げる一方、従量料金単価を引き下げる設計だ。

既存契約者がただちに新メニューへ一律移行するという話ではないため、東京ガスの月150円値上げとは制度設計が異なる。ただし、人件費や資材価格の上昇、需要構造の変化を受けて、大手都市ガス会社で料金体系の見直しが相次いでいる点は共通している。

LNG価格の上昇とは別の話

今回の東京ガスの値上げについて、報道では「今の中東情勢は関係ない」と説明されている。これは、LNG価格の高騰を直接の理由とする値上げではない、という意味だ。

日本の都市ガスの原料は主に天然ガスで、その多くはLNGとして海外から輸入される。LNG価格は原油価格や為替の影響を受け、ガス料金には「原料費調整制度」を通じて反映される。原料費が上がれば、基本料金とは別に従量料金部分が変動する。

今回の月150円の値上げは、固定費や販売量減少への対応であり、原料費調整とは別の層にある。一方で、東京ガスはLNG調達価格が高騰すれば、2026年夏以降に別途値上げする可能性にも言及している。

家計の視点では、今後のガス代を次の2つに分けて見る必要がある。

要因内容今回の値上げとの関係
固定費上昇・販売量減少人件費、資材費、保安費、需要減少今回の基本料金引き上げの主因
LNG価格・為替変動原油価格、中東情勢、円安など今回とは別の変動要因

今回の値上げは、燃料価格だけでなく、都市ガスのインフラ維持費そのものが家計負担に表れ始めていることを示している。

家計への影響をどう見るか

月150円という金額は、一見すると大きくは見えない。しかし年間では1,800円となり、電気代や水道代、食品価格などと重なれば、家計には積み上がっていく。

注意したいのは、今回の引き上げが基本料金である点だ。ガスの使用量を減らせば従量料金部分は抑えられるが、基本料金の上昇分は使用量にかかわらず発生する。特に、もともと使用量が少ない家庭では、ガス代全体に占める固定費の比率が高まりやすい。

一方で、ガスを多く使う家庭では、給湯や暖房の使い方を見直すことで従量料金部分を抑える余地は残る。今回のニュースは「節約しても意味がない」という話ではなく、固定費として避けにくい負担が増えるという話として捉える必要がある。

まとめ

東京ガスの家庭向け基本料金値上げは、消費税増税によるものを除けば46年ぶりの料金引き上げとなる。背景にあるのは、LNG価格の高騰ではなく、人件費や資材費の上昇、保安体制の維持、販売量の減少といった固定費側の圧力だ。

一方で、LNG価格や為替の動きは、原料費調整制度を通じて別途ガス料金に影響する。つまり今後の家計は、基本料金という固定費の上昇と、燃料費由来の変動を分けて見ていく必要がある。

大阪ガスも含め、大手都市ガス会社で料金体系の見直しが進むなか、ガス代は単なる燃料価格の問題ではなく、インフラ維持費と需要構造の変化を映す生活コストになっている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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