米国とイランの協議は、停戦の維持から和平への道筋を探る局面にある。しかし、2026年4月25日の動きは、交渉が前進しているというより、互いに譲歩の幅を測る駆け引きが続いていることを示した。
トランプ米大統領は同日、スティーブ・ウィトコフ特使とジャレッド・クシュナー氏をパキスタンへ派遣する計画を取りやめたと明らかにした。前日にはホワイトハウス報道官が、2人が25日にパキスタンへ向かうと説明していた。ところがトランプ氏は、移動に時間がかかりすぎることや、提示された文書への不満を理由に挙げた。
その後、トランプ氏は記者団に対し、派遣取りやめを表明してから「10分もしないうちに」イラン側からより良い文書が出てきたと主張した。ただし、この修正版の中身や提出経緯は公表されていない。現時点では、イラン側からも公式確認は出ていない。
重要なのは、この発言をそのまま交渉進展の証拠と見ることではない。むしろ、米国とイランの間接協議が、相手に圧力をかけながら条件を引き出そうとする段階にあることを示す材料と見るべきだ。
イラン外相はパキスタンで何を伝えたのか
イランのアッバス・アラグチ外相は2026年4月25日、仲介国パキスタンの首都イスラマバードを訪問し、シャリフ首相やパキスタン軍のムニール陸軍参謀長らと会談した。
イラン外務省やアラグチ氏のSNS投稿によれば、会談では停戦の維持だけでなく、戦闘を終結させるためのイラン側の立場を説明したとされる。ロイター通信も、協議に関わるパキスタン側の情報筋の話として、アラグチ氏が米国の要求に対する懸念を伝えたと報じている。
会談後、アラグチ氏は「アメリカが本当に外交に真剣なのかどうか、はかりかねている」と投稿した。この言葉は、協議が信頼に基づく対話というより、互いの出方を見極める段階にとどまっていることを映す。
パキスタン訪問後、アラグチ氏はオマーンへ移動した。イラン国営メディアなどは、ロシア訪問も予定されていると伝えている。米国とイランが直接向き合いにくい状況で、複数の国を経由した仲介外交が続いている。
仲介国が増えるほど合意は見えにくくなる

パキスタンはイランと国境を接するイスラム圏の大国であり、米国とも安全保障面で関係を持つ。米国とイランが直接協議しにくい局面では、双方のメッセージを伝える調整先になり得る。
オマーンも、過去に米国とイランの間接対話で仲介役を担ってきた国だ。今回、アラグチ氏がパキスタンからオマーンへ移動したことは、協議が一国で完結するものではなく、複数ルートで続いていることを示す。
ロシアについては、イランに近い立場を取りやすい国として、今後の交渉における後ろ盾や調整相手として意識される可能性がある。ただし、現時点でロシアが具体的な保証役を担うと確認されたわけではない。
仲介国が多いことは、外交ルートが残っているという意味では前向きに見える。一方で、合意に必要な利害調整が広がり、条件のすり合わせが複雑になることも意味する。停戦が続いていても、和平の形はまだ見えていない。
停戦中でも市場リスクは消えていない
現在、イランとイスラエルの間では停戦が続いている。しかし、停戦は和平ではない。戦闘が再燃しない保証も、恒久的な安全保障の枠組みも、まだ示されていない。
イランメディアは、米国とイスラエルによる攻撃でイラン国内の電力インフラ2000か所以上に被害が出たと伝えている。ペゼシュキアン大統領は国民に節電を呼びかけたとされる。これらはイラン側の情報に基づくため慎重に扱う必要があるが、インフラ被害が国内の不満や政治的緊張につながる可能性は残る。
もうひとつの焦点がホルムズ海峡だ。ペルシャ湾とインド洋を結ぶこの海峡は、中東産の原油やLNGが通る重要な輸送路である。米国が機雷除去を進める一方、イラン側は海上封鎖への報復を警告していると伝えられている。
ホルムズ海峡の通行に支障が出れば、原油価格やLNG価格、航空燃料、物流コストに波及し得る。日本は原油やLNGの多くを中東に依存しているため、ガソリン価格や電気料金への影響も無視できない。外交協議の停滞は、遠い地域の政治問題ではなく、家計や企業コストにもつながるリスクである。
「電話してくればよい」が示す距離
トランプ氏は、イラン側が話したければ電話してくればよい、という趣旨の発言もしている。この言葉は、米国側が交渉の主導権を握っていると示す政治的メッセージとして読める。
ただし、相手側から見れば圧力として受け止められる可能性もある。米国が強気の姿勢を見せ、イランが仲介国を通じて条件を伝える構図が続く限り、協議は進んでも合意には届きにくい。
今回の代表団派遣取りやめは、交渉の完全な断絶ではない。トランプ氏自身も、戦闘再開を意味するのかと問われた際、そうではないとの趣旨を語ったと報じられている。つまり、窓口は残っている。
それでも、窓口が残っていることと和平に近づいていることは別だ。具体的な条件、検証方法、停戦後の安全保障の枠組みが見えない限り、市場は不確実性を織り込み続ける。
日本にとってはエネルギーの問題でもある
米イラン協議は外交ニュースであると同時に、エネルギー価格のニュースでもある。ホルムズ海峡、原油、LNG、電力料金、物流コストは一直線につながる。
今回の動きを楽観的に見れば、米国とイランはまだ交渉の窓を閉じていない。パキスタン、オマーン、ロシアといった複数のルートも残っている。
しかし慎重に見れば、具体的な和平条件は公になっておらず、双方の不信感も強い。停戦が続いているから安心とは言い切れない。むしろ、出口の見えない停戦が続いていること自体が、エネルギー市場にとっての不安定要因となる。
日本の読者にとって重要なのは、米イラン協議を遠い外交儀礼として眺めることではない。協議が進まないほど、燃料価格や電気料金への波及リスクが残る。停戦中でも遠い和平という現実は、家計と市場の両方に影を落としている。
(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

