
農林中央金庫の巨額赤字を受け、農林中金の運用体制と農林水産業向け金融のあり方が改めて問われている。NHKは、2026年4月24日の参議院本会議で改正農林中央金庫法が可決・成立したと報じた。
農林中金は2025年3月期に、連結純損失1兆8078億円を計上した。過去最大規模の赤字であり、主因は米欧の金利上昇で価格が下がった外国債券の売却損だった。今回の法改正は、この損失を一時的な運用失敗として片付けるのではなく、理事会の専門性や本来業務の位置づけを制度面から見直すものだ。
何が起きたのか
農林中金は、JAや漁協などの協同組織を会員とする金融機関だ。JAバンクの全国段階の中核に位置し、JAなどから集まる100兆円規模の資金を国内外の債券や融資などで運用している。
問題は、長く続いた低金利環境の中で、海外債券への投資が膨らんでいたことにある。債券は金利が上がると価格が下がる。米国や欧州が2022年以降にインフレ抑制のため急速な利上げを進めると、農林中金が保有していた低利回りの外国債券の価格は下落した。
その後、農林中金は米欧国債などの低利回り資産を売却し、2025年3月期に巨額の損失を計上した。赤字そのものは市場環境の変化が引き金になったが、論点はそれだけではない。なぜこれほど大きな金利リスクを抱え、理事会やリスク管理部門がどこまで制御できていたのかが問われている。
外部理事の登用は何を変えるのか
今回の法改正で注目される柱の一つが、外部の専門人材を理事に登用しやすくする見直しだ。
農林水産省の法案概要では、外部の専門人材を理事に登用できるよう、外部理事を兼職・兼業規制の対象から外すことが示されている。これは、債券運用や市場リスク管理に詳しい人材を理事会に加えやすくするための制度変更だ。
巨額赤字を受けた有識者検証会では、市場運用部門、財務部門、リスク管理部門、理事会の役割や責任を明確にする必要性が示された。つまり、単に「運用担当者が失敗した」という話ではなく、巨額の資金を運用する組織として、意思決定と監督の仕組みをどう整えるかが問題になっている。
外部理事の登用は、すぐに運用成績を改善する魔法の手段ではない。それでも、理事会が市場リスクを専門的に理解し、必要なブレーキをかける体制をつくるうえでは重要な一歩となる。
農林水産業向け融資を「必須業務」にする意味
もう一つの柱は、農林水産業者向けの融資などを「任意業務」から「必須業務」に変える点だ。
農林中金は、JA、JF、森林組合などの協同組織を会員とし、農林水産業の資金循環を支えるための金融機関として位置づけられている。一方で、巨額の資金を市場で運用する機能が大きくなる中、農林水産業者への直接的な金融支援が十分ではないとの批判もあった。
今回の改正は、農林中金に対し、農林水産業向け金融をより明確な役割として担わせる狙いがある。農林水産省の法案概要でも、農業経営の規模拡大、物流、加工、輸出などの進展により、農業分野の資金需要が拡大していることが背景として示されている。
スマート農業への設備投資、農業法人の大規模化、輸出対応、事業承継など、現場の資金需要は変化している。農林中金が市場運用で得た収益をどう現場の金融支援につなげるかは、JAバンク全体の役割にも関わる論点だ。
黒字転換だけでは終わらない
足元では、農林中金の収益に改善の兆しもある。農林中央金庫が公表した2025年度第3四半期決算資料では、第3四半期累計の親会社株主帰属純利益が146億円となった。
ただし、黒字に戻ったことだけで、リスク管理上の課題が解消したとはいえない。外債損失の処理後も、運用ポートフォリオをどう分散させるか、金利変動や信用リスクをどう監督するかは残る。
今回の改正法は、農林中金にとって出発点である。実効性は、どのような外部人材を理事会に迎えるのか、理事会が市場運用をどこまで理解し、現場への金融支援をどこまで強められるのかによって決まる。
巨大運用機関と農業金融の両立が問われる
農林中金の巨額赤字は、金利上昇という外部要因だけで説明できる問題ではない。巨大な資金を預かる協同組織金融機関として、運用リスクをどう監督し、農林水産業を支える本来の役割をどう果たすかが問われている。
今回の法改正は、外部専門人材の理事登用と農林水産業向け金融の必須業務化という二つの方向から、その問いに制度上の手当てをするものだ。
重要なのは、農林中金を単なる市場運用機関として見るのではなく、JAバンクという巨大な資金循環の中核として見ることだ。運用で利益を上げる力と、農林水産業の現場に資金を届ける役割を両立できるか。改正法の本当の意味は、今後の体制づくりと融資姿勢の変化で測られる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

