メキシコ原油100万バレル合意 日本の中東依存はどこまで下げられるのか

100万バレルと聞くと膨大な量に思える。しかし日本全体の1日の石油消費量はおよそ180万バレルで、今回の合意量はその約56%、つまり半日分をやや上回る規模にとどまる。

それでも、この合意が注目されるのは量の大きさではない。日本が中東以外の調達先を確保する動きを具体化している点に意味がある。

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何が決まったのか

メキシコのクラウディア・シェインバウム・パルド大統領は4月23日の記者会見で、4月21日に高市早苗首相と電話会談を行い、国営石油会社ペメックス(Pemex)から日本へ100万バレルの原油を輸出することで合意したと明らかにした。日本側からの要請を受けたものだという。

一方、日本側の外務省発表では、両首脳が中東情勢について議論し、現下のエネルギー情勢を踏まえて、エネルギー供給を含む協力を進めることで一致したと説明している。100万バレルという具体量は、日本側発表ではなく、メキシコ大統領側の説明やそれを伝える報道に基づく点は分けて見る必要がある。

日本の経済産業省の資料では、石油備蓄日数の計算に用いる国内の1日あたり石油消費量はおよそ180万バレルとされる。今回の100万バレルは、日本全体の消費量から見れば、短期的な補完にはなっても、供給不安を一気に解消する規模ではない。

なぜ今、メキシコなのか

背景にあるのは、ホルムズ海峡をめぐるリスクの高まりだ。ホルムズ海峡はペルシャ湾とインド洋をつなぐ要衝で、中東産原油の多くはここを通ってアジアへ運ばれる。通航が滞れば、日本の原油調達は不安定化するおそれがある。

日本は原油輸入の9割超を中東に依存しており、供給の分散は長年の課題だった。中東情勢が緊迫するなかで、政府は備蓄放出と代替調達を同時に進めている。

経済産業省は3月下旬以降、国家備蓄原油の放出を進めてきた。さらに4月15日には、第2弾として5月上旬以降に約20日分の国家備蓄石油を放出すると発表している。あわせて、民間備蓄義務量を15日分引き下げた状態も当面維持する。

ただし、備蓄はあくまで時間を稼ぐ手段だ。輸入が止まるリスクに対しては、別ルートからの調達を増やす必要がある。今回のメキシコ原油は、その代替調達の一つとして位置づけられる。

メキシコは頼りになる調達先なのか

問題は、メキシコの供給余力だ。

Pemexは近年、生産量の減少、老朽化した油田、設備投資の制約、債務問題を抱えている。さらにメキシコ政府は、原油を国内で精製してガソリンや燃料を自国でまかなう「エネルギー自立」を重視しており、輸出に回せる余剰量は以前より限られている。

報道によれば、メキシコは国内精製に日量最大140万バレル程度を回し、残りを輸出している。輸出量は日量40万から50万バレル程度とされる。S&Pグローバルも、日本への供給は利用可能な生産量の範囲に限られるとの見方を示している。

今回の100万バレルが1回限りの合意なのか、継続的な供給枠なのかは現時点では明確でない。シェインバウム大統領は、日本へ余剰原油を輸出してきたとも述べており、恒常的な大量供給を約束するものではないと見るのが妥当だ。

数量は限定的でも、意味は別にある

「100万バレルは半日分を少し上回る程度だ。これで何が変わるのか」という疑問は自然だ。

ただ、今回の意義は量だけでは測れない。中東以外の産油国から、政府間の協議を通じて原油調達の選択肢を広げたことは、日本のエネルギー外交において一定の意味を持つ。

外務省の発表によれば、電話会談ではエネルギー供給だけでなく、鉱物資源をめぐる経済安全保障の対話枠組み、日本企業の活動環境、貿易関係の強化も議題になった。メキシコは米国市場に近く、日本企業の製造拠点も多い。原油、鉱物資源、製造業のサプライチェーンを含む広い経済安全保障の文脈で見ることができる。

課題は「中東依存」の構造そのものにある

今回の合意を「日本のエネルギー不安が解消された」と受け取るのは早計だ。

日本の中東依存度は依然として9割超であり、ホルムズ海峡リスクが消えたわけではない。メキシコからの調達は選択肢を一つ増やしたにすぎず、構造的な脆弱性は続いている。

国家備蓄の放出は時間を稼ぐ手段であり、代替調達も数量には限界がある。エネルギー安全保障を本当に強化するには、調達先の分散を継続し、省エネや再生可能エネルギーへの転換も含めた長期的な取り組みが欠かせない。

100万バレルの合意は、日本が動いているというシグナルではある。ただし、安心するための材料ではなく、まだ道半ばの出発点として捉えるのが正確だ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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