航空燃料「異常高」で旅行者と地方路線に影 原油を超えるケロシン急騰の重さ

8月のロンドン往復便が、最大で去年より10万円高い。旅行サイトの調べでは、羽田―ヒースロー間の往復運賃(税・燃油サーチャージ別)は、全日空が昨年8月の19万2,000円から今年8月は29万2,000円、日本航空が19万8,000円から27万7,000円になっている。

「燃料が高いから運賃が上がる」という話自体は珍しくない。ただ、今回の問題は単純な原油高では終わらない。航空機に使うジェット燃料、いわゆるケロシンの価格が、原油価格を上回る勢いで急騰しているためだ。

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原油より航空燃料が高騰している

イラン情勢とホルムズ海峡の事実上の封鎖を背景に、原油価格は急上昇した。米国産原油の代表的な先物指標であるWTIは、軍事作戦前に比べて最大1.7倍まで上昇した。4月上旬に1バレル=110ドルを超えた後、80ドル台まで戻す局面もあった。

一方、航空機に使うケロシンの代表的な指標であるシンガポール・ケロシンは、同じ期間に最大2.5倍まで上昇し、1バレル=200ドル前後の高水準が続いている。原油とケロシンは通常、一定程度連動するとされるが、今回は航空燃料だけが強く上振れしている。

理由は大きく三つある。第一に、ケロシンは旅客機だけでなく軍用機にも使われる燃料であり、中東情勢の緊迫化で需要が増えている。第二に、原油からケロシンを精製できる設備は限られており、短期間で生産量を増やしにくい。第三に、欧州では精製施設が少なく、アジア産ケロシンを調達する動きが強まり、アジアの代表指標であるシンガポール・ケロシンを押し上げている。

日本の航空会社でつくる定期航空協会が「極めて異常な水準に達している」と緊急声明を出したのは4月3日だった。問題の中心は原油そのものではなく、航空燃料という特定製品の需給ひっ迫にある。

燃油サーチャージは北米・欧州で5万6,000円に

旅行者にとって最も見えやすい影響は、国際線の燃油サーチャージ引き上げだ。

ANAとJALは、国際線の燃油サーチャージを5月発券分から引き上げる。当初は6月発券分から予定していたが、前倒しで適用する。日本発の北米・ヨーロッパ方面では、ANAが片道3万1,900円から5万6,000円へ、JALが2万9,000円から5万6,000円へ上がる。

燃油サーチャージだけでなく、運賃そのものにも上昇圧力が出ている。冒頭のロンドン便の例は、税金と燃油サーチャージを含まない往復運賃の比較である。実際に旅行者が払う総額には、引き上げ後のサーチャージがさらに乗る。

欧州方面では、中東経由便が敬遠されたり、中東系航空会社の減便・運休が出たりしている影響で、日本と欧州を結ぶ直行便に予約が集まりやすい。燃料高と供給制約、予約集中が重なれば、航空券価格はさらに高止まりしやすくなる。

ただし、ロンドン便の運賃比較は予約時期が完全に一致しているわけではない。厳密な前年比ではなく、欧州直行便の価格上昇感を示す一例として見る必要がある。

国内線と地方路線にも波及する

航空燃料高は国際線だけの問題ではない。

国内線で燃油サーチャージを設けているFDA(フジドリームエアラインズ、静岡市本社)は、5月1日の発券分から同料金を最高水準に引き上げる。一部路線では最大4倍になる。FDAのサーチャージ体系では、ケロシンが1バレル=150ドル以上の場合が最高ランクだが、足元の価格は200ドル前後と、この表の想定を大きく上回っている。

さらに、これまで国内線で燃油サーチャージを設けていなかった日本航空やスカイマークも、導入を検討していると伝えられている。

定期航空協会は緊急声明で、価格高騰が長引いた場合には「ネットワーク維持に向けてさまざまな影響が生じる」と懸念を示した。業界全体で年間数千億円規模の負担増になるとの報道もある。

ここで重いのは、採算の薄い地方路線への影響だ。燃料費が急に膨らむと、収益性の低い路線ほど維持が難しくなる。現時点で特定の路線縮小が決まったわけではないが、便数の調整や路線の見直しが議論されやすい環境になっている。

海外でも減便と値上げ圧力が出ている

海外でも、航空燃料高は航空会社の運航計画に影響している。

ルフトハンザ・グループは燃料価格と供給制約を背景に、2026年10月までに短距離便を2万便削減する方針を示している。フランクフルトやミュンヘンを中心に、採算の低い短距離路線を絞る動きだ。

海外メディアでは、アメリカン航空の燃料コスト増、ブリティッシュ・エアウェイズの親会社IAGによる運賃引き上げ方針、ブラジル国営石油会社ペトロブラスによる航空燃料価格引き上げ見通しも報じられている。日本だけの特殊事情ではなく、航空燃料高は国際的な航空ネットワーク全体に影を落としている。

ただし、海外事例は各社の経営判断や地域ごとの燃料供給事情によって差がある。日本の読者にとっては、国際線の燃油サーチャージ、欧州直行便の価格、国内線や地方路線への波及を中心に見たほうが実感に近い。

高止まりはどこまで続くのか

野村総合研究所の矢崎圭グループマネージャーは、今回のように短期間で2倍から3倍近くまで上昇するのは「過去にあまり例のない事態」と述べている。中東情勢が落ち着いたとしても、精製設備やサプライチェーンの回復には時間がかかるため、すぐに元の水準へ戻るとは考えにくいとの見方だ。

航空会社のコストのうち燃料費は2〜3割を占める。価格転嫁だけでは限界があり、経営体力の弱い中堅航空会社やLCCほど影響を受けやすい。

経済産業省はガソリンと同様に航空機燃料にも補助を行い、ガソリン補助額の4割相当を支援するとしている。ただ、今回のケロシン急騰幅は、従来の燃油サーチャージや補助の想定レンジを超える水準にある。

「原油が落ち着けば戻る」とは限らない

今後、原油価格が安定しても、ケロシン価格が同じ速度で下がるとは限らない。精製能力の制約、軍事需要、欧州からの調達圧力が続けば、航空燃料市場は原油とは異なる動きをしうる。

旅行者は、欧州便を中心に燃油サーチャージと運賃の高止まりを前提に旅程や費用を考える必要がある。航空会社にとっては、単なるコスト増ではなく、どの路線を維持するかというネットワークの問題になる。

航空燃料の価格は、海外旅行の費用だけでなく、地域と地域を結ぶアクセスの維持にも関わる。原油相場だけを見ていては、この変化の重さは見えにくい。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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