JR北海道の黄8線区をめぐる今回の動きは、上下分離の是非だけを問う話ではない。鉄道を残すとすれば、線路や駅を含む固定費を誰がどう負担するのか。その費用分担を地域、JR、国のあいだでどう組み直すのかが、本当の争点になっている。
JR北海道は2026年4月15日、単独での維持が困難としてきた黄8線区について、持続的に維持する仕組みの構築に向けた考え方を公表した。会社資料では、2024年度実績の営業係数は658で、営業損益は約148億円の赤字だった。利用促進やコスト削減を続けても抜本改善には届かず、同社単独での維持は難しいという認識を改めて示した形だ。
JR北海道が示したのは「4つの協議項目」
報道では上下分離方式が目立っているが、JR北海道が4月15日に示した協議項目は1つではない。公表資料で挙げたのは、線区の利用状況に応じた輸送体系のさらなる見直し、持続的な運行に必要となる担い手の確保、鉄道資産の自治体への譲渡による固定資産税負担の軽減、そして上下分離方式の検討の4項目だ。
上下分離方式とは、線路や駅などの鉄道資産を保有する主体と、列車を運行する主体を分ける仕組みを指す。今回のJR北海道の説明では、自治体側や別法人が鉄道資産を保有し、JR北海道が運行や維持管理を担う形が想定されている。要するに、JR北海道がこれまで抱えてきた「持つ、直す、走らせる」を一社で背負う構図を見直したいという提案だ。
対象となるのは、釧網線、花咲線、富良野線、石北線、宗谷線、根室線の滝川-富良野間、室蘭線の沼ノ端-岩見沢間、日高線の苫小牧-鵡川間の8区間である。いずれも利用が少なく、鉄道の大量輸送機関としての強みを発揮しにくい状況が続いている。
自治体が慎重になるのは自然だ
ただし、上下分離は「鉄道を残せる現実策」とだけ受け止められているわけではない。北海道の鈴木直道知事は4月10日、北海道では施設の老朽化や路線の長大さが大きな課題になっており、地域が主体となって維持するには課題が多く容易ではないとの認識を示した。
自治体側が慎重になる理由は明快だ。線路、駅、除雪、保守といった負担を地域が引き受けることになれば、地方財政への圧力は一段と強まる。鉄道を残したい思いがあっても、費用負担をどこまで受け入れられるかは別問題である。特に北海道の鉄道は距離が長く、冬季の維持コストも重い。制度の名前だけで解決する問題ではない。
国は「まず地域で議論」という立場
国の姿勢も現時点では明確だ。金子恭之国土交通相は2026年4月17日の会見で、国土交通省が2024年3月15日にJR北海道へ出した監督命令に基づき、今年度末までに線区ごとの抜本的な改善方策を取りまとめるよう求めていると説明した。そのうえで、地方自治体を含む地域の関係者が一体となって議論を深めることが重要だと述べ、国交省も議論の場に参画するとした。
一方で、ここで新たな大型財政支援を打ち出したわけではない。国は既存の支援枠組みを説明しているが、今回の会見だけを見る限り、負担の増加分を国が前面に立って引き受けるという段階には入っていない。つまり、国は協議の後押しはするが、まずは地域とJRで具体案を詰めてほしいという立場に近い。
問われているのは費用負担の再設計だ
今回のニュースを「上下分離が採用されるかどうか」だけで読むと、論点を見誤りやすい。より重要なのは、黄8線区を鉄道として残すなら、固定費を誰が支え、どの水準のサービスを維持するのかという設計そのものだ。
JR北海道は鉄道を残したいとしつつ、自社だけでの維持は難しいと言う。自治体は交通手段の維持を重視する一方で、負担増には慎重だ。国も議論には加わるが、追加支援をこの時点で明言してはいない。この3者の距離をどう埋めるかが、2026年度末に向けた最大の焦点になる。
上下分離はそのための選択肢の1つにすぎない。黄8線区の将来を左右するのは、制度の名前よりも、費用負担を誰が引き受けるのかという現実の線引きである。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

