政府は「日本全体として必要となる量は確保している」と説明している。実際、石油備蓄の放出と代替調達は進んでいる。それでも現場では、一部の石油製品や石油由来原料が行き届きにくいという声が消えていない。いま問われているのは、備蓄の残高そのものより、確保した原油を必要な製品に変え、必要な場所まで届けられるかどうかだ。
備蓄放出と代替調達はどう進んでいるか
ホルムズ海峡の事実上の封鎖を受け、経済産業省は3月16日に民間備蓄義務量の引き下げと国家備蓄石油の放出を決めた。放出前の時点で、日本の石油備蓄は国家146日分、民間89日分、産油国共同6日分の合計241日分あった。
その後も対応は続いている。4月15日には第2弾として約20日分の国家備蓄放出と、民間備蓄義務量の引き下げ継続を正式に発表した。政府は、ホルムズ海峡を通らないルートでの代替調達が進み、5月には前年実績比で過半の代替調達が可能になる見込みだとして、年を越えて供給を確保できる目途がついたと説明している。
数字だけを見れば、危機対応は前に進んでいるように見える。だが、ここで示されているのはあくまで国全体の総量だ。現場の不足感とは、そのまま一致しない。
なぜ総量があっても不足感が出るのか
政府は4月上旬の時点で、一部に「供給の偏りや流通の目詰まり」が生じていることを認めている。重要施設向けには、系列や取引実績にとらわれず柔軟に供給し、必要に応じて元売りが直接販売する対応も進めている。
ここで効いてくるのが、石油は一つの製品ではないという事実だ。原油は製油所でガソリン、軽油、重油、ナフサなどに分かれ、その先で化学原料や建材、塗料、接着剤など幅広い製品につながる。用途ごとに在庫、輸送、販売の経路は異なる。国全体で原油量を確保できても、特定の製品が特定の業種や地域へ十分届くとは限らない。
つまり、今回の問題は単純な「量不足」ではない。総量確保と現場供給の間にある、配分と物流のギャップが不足感として表面化している。
代替調達だけではすぐ解決しない理由
代替調達が進んでも、すぐに通常どおりへ戻るわけではない。理由の一つは、原油の質の違いが精製工程に影響するためだ。
日本の製油所は長年、中東産の中質油や高硫黄油を前提に設備や運用が組まれてきた。一方、アメリカ産原油は軽質油が中心で、ガソリンや軽油は取りやすい半面、重油などの歩留まりは変わる。経済産業省も、アメリカ産は日本への輸送日数がかかり、国内設備では精製に手間がかかるため、輸入量を急に増やしにくかったと説明している。
実際、4月11日までの週の製油所稼働率は67.8%だったと報じられている。紛争激化前の80%超と比べると低い水準で、原油を確保できても、需要に合った製品へスムーズに変える工程がなお不安定だと読める。
ここに物流の問題が重なる。原油を持ってくることができても、それを必要な製品に変え、さらに必要な現場へ届けるまでには複数の工程がある。危機が長引くほど、弱い部分から先に詰まりやすくなる。
日本の中東依存が浮き彫りにしたもの
今回の混乱を大きくした背景には、日本の高い中東依存がある。石油連盟によると、2024年度の日本の原油輸入の95.9%は中東産だった。国別ではUAE、サウジアラビア、クウェートが上位を占め、調達先は偏っている。
一方で、アメリカ産原油の輸入は増えている。2025年の輸入量は602万キロリットルで前年の1.8倍となったが、それでも全体の4%余りにとどまる。調達先の多角化は進んでいても、中東依存を短期間で置き換えられる段階にはまだない。
今回見えたのは、備蓄の多寡だけでは測れない供給網の弱点だ。輸入先が偏り、製油所の前提原油も偏っていると、代替調達が進んでも製品供給の乱れは残りやすい。
次に見るべきポイント
今後の焦点は三つある。第一に、製油所稼働率が持ち直すか。第二に、重要施設向けの柔軟な供給対応が現場の不足感をどこまで和らげるか。第三に、代替調達の増加が、実際の製品供給の安定につながるかだ。
石油危機というと、まず備蓄日数に目が向きがちだ。だが今回の局面で露わになったのは、原油を持つことと、使える製品を必要な場所へ届けることの間にある距離だった。日本が向き合っているのは、単なる在庫の問題ではなく、精製と流通を含めた石油サプライチェーン全体の強さである。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

