4月12日付の報道によると、ソフトバンク(9434)、NEC(6701)、本田技研工業(7267)、ソニーグループ(6758)などが、国産AI基盤モデルの開発を担う新会社「日本AI基盤モデル開発」を設立したと報じられた。狙うのは、チャットAIの次の主戦場とみられるフィジカルAIの土台づくりだ。ロボットや車両、製造装置を動かす基盤モデルを国内で整備し、米中先行に対抗する布石として注目が集まる。
新会社は何を目指すのか
報道ベースで見えている新会社の役割は、ロボットや車両、製造装置などを自律的に制御するための国産AI基盤モデルを開発し、日本企業が使いやすい形で広く提供することにある。
その先にあるのが「フィジカルAI」だ。生成AIが文章や画像を扱うデジタル空間のAIだとすれば、フィジカルAIはカメラ映像、音声、各種センサーデータを統合して現実世界を理解し、ロボットや機械の動作につなげるAIを指す。内閣府・経済産業省のAI・半導体ワーキンググループ資料でも、AI競争は大量データを学習する「規模の競争」から、現場データと制御技術を組み合わせて物理的な現場へ実装する「統合力の競争」へ移りつつあると整理されている。
報道では、AI開発企業Preferred Networksの技術者が参加する見通しも伝えられている。実現すれば、国産の基盤モデル開発と現場実装の距離を縮める材料になりそうだ。
なぜ4社が連合を組むのか
AI基盤モデルの開発には、計算資源、学習データ、実装先、資金の4つが要る。米巨大テックのようにこれを単独でそろえるのは、日本企業には簡単ではない。だからこそ異業種連合の意味が出てくる。
ソフトバンクは通信インフラに加え、日本最大級の北海道苫小牧AIデータセンターを進めるなど、計算基盤づくりを急ぐ。NECは社会インフラ向けITシステムに強い。本田技研工業はモビリティとロボティクスを持ち、ソニーグループはイメージセンサーやエレクトロニクスに厚みがある。異なる産業の強みを束ねることで、単独では埋めにくい空白を補う構図だ。
国産のAI基盤モデルを持つ意義も大きい。日本の現場データを国内事情に合わせて扱いやすくなり、海外モデルへの依存を下げやすい。工場、物流、モビリティといった日本の強みがある現場へ最適化しやすい点も見逃せない。
政府支援とどうつながるのか
この動きと重なるのが、NEDOの大型事業だ。NEDOは2026年3月24日、「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の公募を始めた。事業期間は2026年度から2030年度までの5年間で、経済産業省の令和8年度予算PR資料では同事業に3,873億円が計上されている。
報道では、新会社がこの支援事業への応募を視野に入れているとされる。民間の開発体制と政府の予算措置がかみ合えば、国産AI基盤モデルの開発を加速させる呼び水になり得る。
世界はすでに実世界AIへ動いている
世界では、生成AIの次の競争軸として実世界への実装が前面に出始めた。米NVIDIAは2026年1月のCESで、ロボット向けのオープンモデルや学習基盤、物理世界向けのAIインフラを相次いで発表している。AIが会話や画像生成にとどまらず、工場や物流、モビリティへ広がる流れは、すでに始まっている。
その意味で今回の日本連合は、米中先行を意識した巻き返し色が濃い。単なるチャットAIの国産化ではなく、実世界を動かすAIの基盤づくりで主導権を取り戻せるかが問われる局面に入った。
勝負を分けるのは性能より実装力だ
もっとも、課題は小さくない。米中の先行勢は資本力も研究者層も厚い。4社連合はスケールで劣るうえ、異業種連携ゆえに意思決定の速度や知財の切り分けが難しくなる可能性もある。
それでも勝負を分けるのは、モデルの性能だけではない。どれだけ早く現場に載せ、使う企業を増やし、データと制御技術を回せるかが重要になる。その点で、本田技研工業やソニーグループのように実装先を持つ企業が参加する構図は、新会社の強みと読める。
日本のフィジカルAI戦略が官民の掛け声で終わるのか、それとも現場を動かす基盤に育つのか。今回報じられた新会社の動きは、その試金石となる可能性がある。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

