ホルムズ海峡の混乱が長引くなか、日本政府がアジアの現地企業による原油調達を金融面から支える新たな枠組みを検討していると、ロイターが報じた。対象は日本企業そのものではなく、日本のサプライチェーンを支えるアジアの企業群だという。詳細はなお調整段階だが、この話が注目されるのは、エネルギー安全保障の発想が「自国向けの原油確保」から「地域の需給安定を通じて自国産業を守る」方向へ動き始めているからだ。
問題は「原油価格」より「買える企業」と「買えない企業」の差
ホルムズ海峡は世界の石油供給の大動脈であり、ここで物流が滞れば中東依存の高いアジアは一気に調達難に陥る。4月上旬には船舶追跡データをもとに、通峡タンカー数が平時を大きく下回ると伝えられた。代替先として米国や西アフリカ、南米産原油に目を向ける動きは出ているが、輸送距離の長さに加え、保険料や滞船コストも重く、単純な置き換えにはなりにくい。
ここで効いてくるのが、企業ごとの信用力の差だ。原油やナフサを確保したくても、資金繰りや信用補完が弱ければ、価格が上がった局面ほど調達競争から押し出されやすい。東南アジアや南アジアの素材メーカー、化学会社、物流会社が原料を確保できなければ、日本向けの部材供給も止まりかねない。今回の支援案が注目されるのは、原油高そのものより、金融面の弱い企業が先に買い負ける構造に焦点を当てているためだ。
確認済みの政府対応は国内備蓄放出と代替調達の後押し
足元で確認できる政府対応は、まず国内向けの供給確保だ。経済産業省は3月16日に民間備蓄義務量の引き下げと国家備蓄石油の放出を決め、3月24日には国家備蓄原油の放出も正式に決定した。JOGMECは3月26日以降、複数の国家石油備蓄基地で順次放出を進めている。
赤沢経産相も4月7日の会見で、原油の具体的な調達量について確かな数字の提示は避けつつ、中東から出発したタンカーが3月28日と4月5日に日本へ到着しており、代替調達は着実に進んでいるとの認識を示した。政府としては、備蓄放出と代替調達を通じて「日本全体として必要となる量」の確保を進める立場を維持している。
JBICが前面に出る意味
この文脈で存在感を増すのがJBIC(国際協力銀行)だ。JBICは民間だけでは資金を出しにくい大型案件や、資源・インフラ・経済安全保障に関わる案件を金融面で支える政府系金融機関で、2月にはUAEのRuwais LNGプロジェクト向け融資を公表している。日本政府が今回の原油調達支援でもJBICを軸に据えるとすれば、それは単なる危機対応ではなく、エネルギー外交と経済安全保障を資金面から支える常設プレーヤーとして位置づけていることを意味する。
一方で、ロイターが報じた新枠組み案については、どの国のどの企業を対象にするのか、融資なのか保証なのか、ADB(アジア開発銀行)がどの制度で関与するのかなど、詰めるべき論点が多い。支援総額が1兆円超規模になるとの見通しも報じられているが、現時点では確定政策としてではなく、政府内で調整が進む構想として受け止めるのが適切だろう。
日本が守ろうとしているのは「国内在庫」だけではない
今回の動きが興味深いのは、日本政府が守る対象を国内備蓄だけに限定していないことだ。3月27日の赤沢経産相会見では、代替調達先として米国、ホルムズ海峡を経由しない中東ルート、中央アジア、南米などを挙げつつ、アジアのエネルギー市場の安定が重要だという認識がにじんだ。韓国など他のアジア輸入国も代替調達を急いでおり、調達競争は日本だけの問題ではない。
日本の製造業は、アジア全域の工場や素材メーカー、物流網とつながっている。現地企業が原料を確保できなければ、日本国内の生産もいずれ滞る。そう考えれば、アジア市場の需給を安定させること自体が、日本の産業基盤を守る行為になる。今回浮上した支援案は、その現実を政策として言語化し始めたものといえる。
焦点は「構想」から「制度」へ落とし込めるか
今後の焦点は明確だ。ロイターが報じた構想が、実際に機能する制度へ落ちるのかどうかである。危機時に必要なのは、備蓄放出のような即効策だけではない。代替原油を買いたくても買えない企業に、誰が、どの条件で、どこまで信用補完を付けるのか。その設計次第で、アジアの供給網の傷み方も、日本経済への波及の度合いも大きく変わる。
ホルムズ危機を受けた日本の対応は、いまのところ「国内備蓄」と「代替調達」が中心だ。だが、その先にアジア向けの金融支援が本格化するなら、日本のエネルギー安全保障は一段と地域安定化型へ軸足を移すことになる。今回の支援案は、その転換点になり得る。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

