中東情勢の緊迫を受けて、日本政府は2026年3月31日、首相官邸で第2回となる関係閣僚会議を開催した。高市首相は赤澤経済産業大臣を中心とする省庁横断の「局長級タスクフォース」の設置を指示し、石油製品の安定供給に向けた対策を一段強化した。
会議後の記者会見で木原官房長官は「直ちに供給上の問題が生じるとの報告は受けていない」と述べつつも、「流通段階で偏りがあり、製品などが行き届いていない事例が生じている」と説明した。同日の赤澤経産相の会見でも「現状は石油の需給に影響が生じているという認識は持っていない」としながら、一部で偏りや目詰まりがあることが認められた。
全体量は足りている。しかし、必要な場所に必要な製品が届かない。政府は今回、流通の偏在を重い論点として見始めており、価格対策に加えて、物流と配分管理の要素も前面に出てきた。
ナフサとは何か——石油化学の起点
今回の政府対応で繰り返し登場するのが「ナフサ」という言葉だ。聞き慣れない人も多いかもしれないが、これは石油化学の世界では欠かせない基礎原料である。
原油は精製されることで、ガソリン、軽油、重油、ジェット燃料など、用途の異なる製品に分けられる。ナフサはそのひとつで、プラスチック、合成繊維、医療器具、食品包装などの原材料となる石油化学製品の起点になっている。
だからこそ今回の対策では、ナフサの確保が最優先事項のひとつに挙げられた。具体的には、人工透析に使うプラスチック製品(透析回路)、注射器、医療用手袋、さらに食品の容器包装資材まで、その用途は生活の隅々に及ぶ。ガソリン価格問題とは別の次元で、ナフサの供給が滞れば医療現場や農業・食品産業にも直撃しかねない、というわけだ。
「量はある」のに届かない——流通の偏在という問題
「全体量は足りているのに、現場で困っている」という状況は、量と配分が切り離されるときに起きる。特定の流通ルートに負荷が集中し、バスやフェリー、工場、農林水産業の現場に燃料が届きにくくなる。政府が「きめ細かい対応」を求めたのはこのためだ。
コメ不足(2024年)の際も、農家には在庫があっても小売店の棚から消えるという事態が生じた。構図の一部では似ており、量の総計ではなく「必要な場所に届くか」が問われている。
赤澤経産相は「需要サイドの対策を含め、あらゆる政策オプションを検討する」と述べており、需要抑制の可能性も将来的な選択肢に含まれている。ただし自民党の萩生田幹事長代行は「今すぐ国民に消費抑制を求める段階ではない」と述べており、まだ需要抑制要請の段階にはないとの説明にとどまる。
農林水産省は3月31日、農林水産業や食品産業の事業者からの相談窓口を設けることを明らかにし、経済産業省との連携で対応にあたる体制を整えた。国民民主党の玉木代表はこうした動きに対し、「物流の目詰まりが起きており、対応が遅いと現場から悲鳴が上がっている分野も多い。高市首相が先頭に立ってスピード感を持って対応してほしい」と注文をつけた。
3月の備蓄放出から、流通管理への軸足の広がりへ
今回の関係閣僚会議は、突発的な危機への初動対応ではない。日本はすでに3月16日から民間備蓄の放出を、3月26日からは国家備蓄の放出を開始している。これはIEA(国際エネルギー機関)が3月11日に加盟国間で確認した協調備蓄放出の一環で、日本はアジア・オセアニアの加盟国とともに先行的に市場放出に動いた。
3月31日の会議は、こうした備蓄放出・価格抑制補助の取り組みに加えて、流通管理・重要物資の総点検へと軸足が広がりつつある局面とみられる。高市首相が「重要物資の供給状況を総点検し、安定確保のための具体的な対応方針を検討するよう」求めた背景には、単なる燃料価格問題を超えた、サプライチェーン全体を俯瞰する必要性がある。
翌4月1日には、IEAのビロル事務局長が「4月の供給障害は3月の2倍規模になる可能性がある」と警告した。「今は量が足りている」という足元の事実は、先行きの楽観を意味するものではない。
日本だけの問題ではない——アジア連携の動き
高市首相は会議で「アジア諸国と製品供給に向けて相互協力を進めたい」との考えも示した。ロイターは3月31日、日本・インドネシア首脳会談でエネルギー安全保障協力の強化が確認されたほか、フィリピンが日本からディーゼルの供給を受けたと報じている。中国が精製燃料の輸出を制限したことで、アジア全体が代替調達を急ぐ中、日本は一部で供給支援の役割も担い始めている。
中東依存度が高い日本にとって、ホルムズ海峡(イランとオマーンの間に位置する、中東産原油の主要輸送路)の緊迫は原油調達だけでなく、石油化学製品の原料から医療資材まで幅広く影響する。赤澤経産相はアメリカや中東の代替ルートに加え、中央アジア・中南米からの代替調達も進めていると述べており、供給源の多角化が急ピッチで進んでいる。
価格対策に加わった「配分・流通管理」という要素
今回の一連の動きが示すのは、政府の対策の重心が移りつつあるという点だ。補助金でガソリン代を下げる価格政策は引き続き進むが、それに加えて、「誰に何を届けるかを管理する」配分・流通管理の要素が前面に出てきた。価格高騰は補助金で緩和できるが、特定の製品が特定の場所に届かないという問題は、お金だけでは解決できない。
省庁横断タスクフォース、アジア連携、農水省の相談窓口——これらはいずれも、物流と配分の管理を国家レベルで行う体制を作る動きだ。中東情勢が長期化した場合、この体制がどこまで機能するかが問われてくる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

