下院で押し切り、上院で時間を取り戻す――2026年度予算案が映した二院制のねじれ

2026年3月30日、新年度の暫定予算が参議院本会議で可決・成立した。総額は約8兆5600億円。4月1日から11日までの11日間に必要な社会保障費や地方交付税、高校授業料無償化の費用などを計上したものだ。一見すると「年度内に本予算が間に合わなかったので、つなぎの予算を通した」というニュースだ。しかし、今回の暫定予算をめぐる攻防には、もう一本の太い軸があった。衆議院と参議院の数の差が生んだ、日本の二院制の今が浮かび上がっている。

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衆議院では「数の力」で押し切った

2026年度当初予算案は、3月13日に衆議院を通過している。採決では、自民・維新両党を中心に与党が衆議院の多数を背景に可決した。Japan Timesはこれを「ruling bloc pushes budget through Lower House in supermajority flex(与党連合が下院で数の優位を見せつけて予算を可決)」と表現した。

日本国憲法60条2項は、予算について参議院が衆議院と異なる議決をした場合や、衆議院可決後30日以内に参議院が議決しない場合は、衆議院の議決が国会の議決になると定めている。この「自然成立」の仕組みによれば、衆議院で可決した予算は、参議院がいかに抵抗しても、最終的には成立する。3月13日から数えると、自然成立は4月11日となる計算だ。

つまり与党側は、「衆議院で通してしまえば、結局は成立する」という状況にあった。だが現実はそう単純ではなかった。

参議院という「壁」

参議院では、与党の会派が過半数まで4議席足りない状況にある。衆議院では多数を持つ与党が、上院では少数派なのだ。「ねじれ」と呼ばれるこの状態では、自然成立の期限(4月11日)まで待てば予算は成立するが、その間の4月1日以降の年度初日から支出できる保証はない。

自然成立は「参議院が議決しないまま期限を迎えれば衆議院の議決が確定する」という制度だが、「年度の最初から自動的にお金が使える」という意味ではない。4月1日以降に必要な社会保障費や地方交付税を支出するには、別建ての授権が必要になる。それが暫定予算だ。

一方で野党側も、暫定予算の必要性自体は認めつつ、参議院での審議時間の確保を重視していた。暫定予算が成立することで、4月11日の自然成立前に「参議院が審議する時間」が制度的に生まれるからだ。参議院での委嘱審査や集中審議を通じて、上院として実質的な論議を残したい——これが野党の共通した立場でもあった。

日本保守党との「条件付き合意」

与党が参議院で少数であることは、今回の予算をめぐる交渉においても具体的な動きを生んだ。自民党の松山参議院議員会長と萩生田幹事長代行は3月30日午後、日本保守党の百田代表らと国会内で会談した。

日本保守党は参議院に2議席を持つ小規模政党だが、与党が過半数まで4議席不足という状況では、貴重な協力者になりうる。自民党側が予算案成立への協力を要請すると、日本保守党側は移民政策や「スパイ防止法」の制定をめぐって両党で協議を行うこと、そして食料品への消費税ゼロを議論する超党派の「社会保障国民会議」に日本保守党が加わることを条件として提示した。

自民党はこれを受け入れ、条件付きで予算案成立への協力が合意された。会談後、松山氏は「日本保守党に協力してもらえることになり、成立に向けて大きな前進が図られた」と述べた。少数与党が置かれた参院の現実が、小政党との政策交渉という形で可視化された場面だ。

野党が問うた「審議の実質」

暫定予算の採決に先立ち、参議院予算委員会では各党の発言が相次いだ。国民民主党の玉木代表は「高市総理大臣は『不測の事態』という言い方をしているが、衆議院を解散した時点で分かっていたことで、予測可能な未来だった」と述べた。計画的な解散によって予算提出が遅れた以上、暫定予算が必要になることは自明だったというわけだ。

立憲民主党の斎藤国会対策委員長は「年度内成立が難しいことはわかっていたのに誰一人明言できなかった状況に怖さを覚える」と述べ、集中審議での首相出席を求めた。中道改革連合の重徳国対委員長は「日程闘争に明け暮れたのは与党だ」と断じた。

これらのコメントに共通するのは、予算案の中身をめぐる対立に加えて、参議院での審議時間をいかに実質的に確保するかという問いだ。今回の攻防では、予算の内容だけでなく、参議院審議の実質をどう守るかも重要な争点になった。

暫定予算の成立により、参議院は4月1日と2日に委嘱審査(分野ごとに各常任委員会で審議を行う仕組み)を行うことが全会一致で議決された。続いて、集中審議での本格論戦も焦点になる見通しだ。

二院制の「設計思想」が今に問いかけること

日本の二院制は、衆議院に優越権を与えながらも、参議院に一定の再考機能を持たせる構造になっている。予算については、衆議院が最終的な決定権を持つ。それでも参議院は、30日間という時間を使って審議を深め、国民に論点を示す役割を担う。

今回の暫定予算をめぐる一連の経緯は、その「30日間」の意味をあらためて問い直す出来事だった。与党は衆議院で通せば自然成立する。しかし参議院の少数与党という現実が、小政党との条件交渉を生み出し、野党が審議の実質を求める動きを後押しした。暫定予算は「予算の空白を埋める安全装置」だが、それが必要になった背景には、二院制のねじれという日本政治の現在地が映し出されていた。

2026年度予算案は4月11日までに自然成立する見込みだが、参議院での審議がそれまでに「空白」のままで終わるのか、それとも実質的な論戦を残すのか。暫定予算が通った翌日から、参議院での審議の実質をどう確保するかが本格的な焦点になる。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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