フーシ派が警告──米軍がイラン攻撃すれば紅海は再び戦場になりかねない.

イエメンの武装組織フーシ派の報道官が3月30日、「今はイスラエルだけが標的だ」と語った。一見すると戦線の限定を宣言しているように聞こえる。だが実際のメッセージはむしろ逆で、「米軍がイランに手を出せば、紅海とアラビア海の艦船も湾岸の米軍基地も攻撃する」という対米参戦ラインの事前通告だった。

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フーシ派とは何か、なぜ今この発言が出たか

フーシ派は、イエメンの首都サナアなど国土の大半を実効支配する反政府武装組織だ。イランが後ろ盾となっており、「抵抗の枢軸」と呼ばれる親イラン勢力の一角を担う。2023年後半からは、紅海でイスラエルや西側諸国に関連するとみなした船舶を繰り返し攻撃し、世界の海運を混乱させてきた。

今年3月28日、フーシ派はおよそ1年ぶりとなる対イスラエル弾道ミサイル攻撃を公表した。イスラエルによるイランへの攻撃が続くなかで、「イラン防衛」を名目に戦線へ復帰した形だ。AP通信はこの動きを、フーシ派がイランをめぐる戦争に正式に加わったと位置づけている。

それから2日後、報道官がNHKの取材に応じた。発言の骨子はこうだ。「この戦争を始めたのはイランではなく、イスラエルとアメリカだ」「現在の標的はイスラエルだ」「しかし米軍が紅海やアラビア海に艦船を展開してイランを攻撃すれば、その艦船も、サウジアラビアなどの米軍基地も標的になる」。

「対米停戦」は維持されている──ただし条件付きで

この発言を読み解くには、2025年5月の合意を知る必要がある。当時、米国とフーシ派はオマーンの仲介のもとで実質的な攻撃停止に合意した。米軍がフーシ派への空爆をやめ、フーシ派は米国関連の船舶への攻撃を停止するという内容だ。ただしその際、フーシ派はイスラエル関連船舶への攻撃まで止めるとは約束していなかった。

今回の発言は、この合意を「破棄する」というものではない。むしろ「現時点では対米停戦を維持している」という前提を置いたうえで、米軍が対イラン作戦に直接踏み込めばその前提が崩れると予告している。つまり「停戦破棄の宣言」ではなく、「対米参戦ラインの事前通告」とみるのが正確だ。

「二つの喉元」が同時に揺れる意味

米シンクタンク系メディアのAxiosは、フーシ派の参戦が持つ地政学的な危うさを、「チョークポイントの二重化」という切り口で整理している。

チョークポイントとは、国際海運の流れが一か所に集中する戦略的な海峡のことだ。すでにイランはホルムズ海峡周辺で強い軍事的影響力を持つ。ペルシャ湾から原油を積んだタンカーが通る要所で、ここが大きく機能不全に陥れば中東産原油の輸出は深刻な打撃を受ける。

これに加えてフーシ派が紅海の南端にあるバブ・エル・マンデブ海峡を再び不安定化させると、事態は別の次元に進む。バブ・エル・マンデブはスエズ運河へとつながる海の玄関口で、欧州・中東・アジアを結ぶコンテナ航路の大動脈だ。ここが機能しなくなれば、船舶はアフリカ大陸の最南端・喜望峰を迂回しなければならず、輸送コストと日数が大幅に増える。

2023〜2024年にフーシ派が紅海攻撃を活発化させた際、主要海運会社の多くがスエズ経由を避けて喜望峰回りにシフトし、コンテナ運賃が急騰した経緯がある。今回の発言は、その再来を警戒させるシグナルと受け取ることもできる。

「紅海は今安全」という言葉をそのまま信じていいか

報道官は「現在すべての船舶は自由に航行できている。イスラエル関連でなければ紅海で問題は起きていない」とも述べた。

ただし、この言葉を額面通りに受け取ることには慎重でいる必要がある。S&Pグローバルは今年2月の時点で、紅海航路への一部復帰の動きが出始めているものの、フーシ派の脅しが再開すれば不確実性がすぐに高まると分析していた。

船主や保険会社にとってのリスク評価は、「実際に誰が攻撃されたか」だけで決まらない。「攻撃能力を持ち、攻撃意思を公言している主体がいる」という事実だけで、保険料は上昇し、航路の判断は慎重になる。フーシ派が「今は安全」と言いながら「条件次第では再び攻撃する」と明言している以上、海運リスクがゼロになるわけではない。

「今はイスラエルだけ」という言葉が意味する本当のこと

報道官の発言を整理すると、フーシ派の現在地がよく見えてくる。

対イスラエルには攻撃を再開した。対米は停戦中だが、米軍の動き次第で解除する。紅海は今のところ選択的に開いているが、状況が変われば再び封鎖し得る。「イランを見捨てない」という言葉を加えれば、フーシ派は自らの行動を地域の盟主イランの防衛と位置づけていることも分かる。

つまり「今はイスラエルだけ」という発言は安心材料ではなく、対米参戦の条件と、再び紅海を戦場にする可能性をあらかじめ示した発言を同時に含んでいる。米国がイランへの関与をどこまで深めるか、その判断が、中東だけでなく世界の物流と原油価格に直結する局面が近づいている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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