3月31日、中国国家統計局は3月の製造業PMIを発表した。50.4。前の月(2月)の49.0から1.4ポイント改善し、景気の節目とされる「50」を3か月ぶりに上回った。ヘッドラインの数字だけを見れば「回復」だ。しかし中身を分解すると、大企業と中小企業の明暗、輸出の低迷、そして急騰しはじめたコスト指数という、三つのねじれが浮かび上がる。
PMIとは何か──「景気の体感温度計」として読む
PMI(購買担当者景況感指数)は、企業の購買担当者に「今月の仕入れや受注は先月より増えたか、減ったか」を聞いたアンケートをもとに作られる指数だ。50を上回れば前月より景況感が改善、下回れば悪化を意味する。「成長率が何%」ではなく、「今月は先月よりよかった・悪かった」という空気感を数値化したものだ。
今回、中国国家統計局が対象にしたのは製造業3200社。政策判断にも使われる公式指標で、月次で発表される。ただし、一般に公式PMIは大企業や国有企業の動きが反映されやすいとみられている。そのため、中国の景況感を読むときは公式PMIと並んで、民間企業寄りのCaixin PMI(財新PMI)も参照するのが通例だが、Caixin版の3月値はこの記事の執筆時点ではまだ未発表だ。
3月の主要数値まとめ
| 指標 | 3月 | 2月 | 変化 | 節目(50)比 |
|---|---|---|---|---|
| 製造業PMI(総合) | 50.4 | 49.0 | +1.4 | ✅ 上回る |
| 非製造業PMI | 50.1 | 49.8 | +0.3 | ✅ 上回る |
| Composite PMI(合成) | 50.5 | 49.5 | +1.0 | ✅ 上回る |
製造業 内訳(企業規模別)
| 規模 | 3月 | 節目比 |
|---|---|---|
| 大企業 | 51.6 | ✅ 上回る |
| 中規模企業 | 49.0 | ❌ 下回る |
| 小規模企業 | 49.3 | ❌ 下回る |
製造業 主要サブ指数
| サブ指数 | 3月 | 節目比 |
|---|---|---|
| 生産指数 | 51.4 | ✅ 上回る |
| 新規受注 | 51.6 | ✅ 上回る |
| 新規輸出受注 | 49.1 | ❌ 下回る |
| 原材料購入価格 | 63.9 | ⚠️ 急騰 |
| 出荷価格 | 55.4 | ⚠️ 高水準 |
(出所:中国国家統計局、Trading Economics整理)
「50超え」の正体は春節明けの反動か
最初に確認すべきことがある。3月の改善には、中国独特の季節要因が一定程度乗っている可能性が高い。
中国では1〜2月に旧正月(春節)の大型連休があり、工場の稼働や受注活動が停滞する。その反動で、休み明けの3月は生産・受注ともに戻りやすい。つまり「3月に50を回復した」ことが、中国経済の基調が改善したことを意味するとは限らない。春節のたびに起きる「季節的な揺れ戻し」として見る必要がある。
この点について、AP報道では、今回の改善はイラン戦争後のエネルギー高の本格影響が広がる前の数字である可能性が示されている。つまり、3月の改善はエネルギー価格上昇の打撃が本格化する前の数字という見方もでき、4月以降のデータを見極める必要がある。
50超えでも苦しい:中小と輸出のリアル
ヘッドライン(50.4)が50を上回っていても、中身を見ると景気回復の恩恵が均等に広がっていないことがわかる。
大企業は51.6と節目を大きく上回った一方、中規模企業(49.0)と小規模企業(49.3)はいずれも50を下回ったままだ。景況感の改善は大企業主導であり、中小企業にはなお十分に広がっていないと読むべき数字だ。
輸出受注も同様だ。新規輸出受注は49.1と、2月(45.0)から大きく戻したものの、50には届いていない。世界需要の弱さや、関税・貿易摩擦への懸念が、輸出回復の足を引っ張っている可能性がある。
一番気になる変化:価格指数の急騰
今月最も注目すべき変化は、実は景況感の改善よりも「価格指数の急騰」かもしれない。
原材料の購入価格指数は63.9、出荷価格指数は55.4と、いずれも数年ぶりの高水準となった。中東情勢の緊迫を背景にした原油高や非鉄金属高が、製造業のコスト面に一気に効き始めている。
価格指数の上昇は、一見すると「物が高く売れている」とも読めるが、実態はコスト上昇が先行しているケースが多い。企業が仕入れ値の上昇を販売価格に転嫁できれば利益は守れるが、競争が激しい市場では転嫁が難しい。特に輸出受注がまだ50割れの状況では、価格転嫁が十分に進まなければ利益を圧迫する方向に働きやすい。
不動産不況という「底流れ」は変わっていない
APが繰り返し指摘するのは、中国経済が「景況感の改善」という表面の動きとは別に、不動産市場の長期的な不況という構造問題を抱えていることだ。住宅不況は家計の資産価値を押し下げ、消費意欲を慢性的に抑える。内需が弱い状態が続くと、企業は国内で売ることができず、外需頼みにならざるを得ない。しかし輸出受注もまだ回復途上にある。この構造は、PMI1か月の改善では変わらない。
次に見るべき数字は何か
今月の公式PMIは「大企業中心の春節明け反動回復」として整理するのが穏当な読み方だ。景気の基調が改善したかどうかを判断するには、以下の指標を引き続き確認する必要がある。
- Caixin(財新)製造業PMI(4月初旬発表予定):民間・中小企業の景況感をより反映する
- 4月の製造業PMI:春節の反動が剥落した後も50超えを維持できるか
- 原材料・エネルギー価格の動向:中東情勢次第でコスト圧力が一段と強まる可能性
「50超え」という数字は出た。しかしその中身は、大企業の反動回復と価格急騰の同時進行という、楽観も悲観もしにくい景色だ。中国景気の回復が本物かどうかは、今後数か月のデータが答えを出す。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

