アメリカでは一般的に、大統領が軍事行動に出た直後に支持率が一時的に上がる現象が起きやすいとされてきた。政治学では「ラリー・アラウンド・ザ・フラッグ(旗の下に集う)効果」と呼ばれる。国難に際して国民が大統領を中心にまとまる、という心理だ。
しかし今回のイランへの軍事作戦では、その典型が起きていない。
Reuters/Ipsos調査が3月初旬に明らかにした数字は、支持27%・不支持43%だった。YouGovの調査でも攻撃への不支持が支持を上回り、無党派層では不支持が特に優勢だった。NHKの取材に応じたハーバード大学のマシュー・バウム教授(米政治世論研究)によると、世論は当初から懐疑的で支持が広がる兆しは見えないという。

なぜ「国民の結束」が生まれなかったのか
今回の対イラン作戦で起きているのは「国民の結束」ではなく「党派的支持の固定化」だ、という見方がある。
エコノミスト誌とYouGovの共同調査は、共和党員の間ではイランへの武力行使支持が強まっている一方、全体としては不支持が優勢という状況を「分極化の進行」として描いた。つまり、支持するのも反対するのも、すでに党派ラインにほぼ沿っている。
NHKによるとバウム教授は、その背景としてインフレやガソリン価格の高騰が国民の体感コストになっていること、開戦前に目標を国民に説明する手順が踏まれなかったことを指摘しているという。
開戦の意義が腹落ちしないまま、生活コストという形で戦争の影響が家庭に届いている。これが、今回の世論を特徴づける基本構図だ。
有権者が注目する4つの支持低下要因
AP-NORC調査が3月19〜23日に実施した調査では、米軍の対イラン行動は「行き過ぎだ」と答えた人が59%。トランプ氏のイラン対応を「支持する」は35%にとどまった。戦略論より、「この戦争の運営を任せられるか」という政権への信頼が問われている。
各社の調査を横断して見ると、アメリカの有権者が支持・不支持を判断する際に影響しやすい要素が4つ浮かぶ。
ガソリン価格の高騰。ロイター通信は3月上旬、全米平均ガソリン価格が1ガロン3ドル台を超えたと報じた。Reuters/Ipsos調査では62%が「今後もガソリン価格が上がる可能性が高い」と答えており、戦争コストを最も直接的に体感できる指標として機能している。
米兵への犠牲。NHKによるとバウム教授も犠牲者の増加を支持低下の背景として挙げている。戦場での死傷者情報が積み重なるほど、戦争の「抽象的なコスト」が「具体的な損失」に変わり、世論は揺れやすくなる。
地上部隊投入への恐怖。Reuters/Ipsos調査では65%が「トランプ大統領はいずれ大規模な地上戦を命じる」と予測している一方、それを支持するのはわずか7%だ。地上部隊の投入は世論の警戒線で、これが現実になると支持層の反応は大きく変わりうる。
戦争目的の説明不足。Ipsosの調査では60%が「アメリカの関与は長引く」と見ており、64%が「トランプ大統領はイランに関する目標を明確に説明していない」と回答している。目標が見えない長期化は、もともと懐疑的な無党派層の離反を加速させやすい。
先に「冷える」のはMAGAの核ではなく周辺票
NHKによるとバウム教授は、現時点ではMAGA(トランプ大統領の熱心な支持基盤)層の支持はおおむね保たれているとしつつも、若者を中心に共和党支持者の一部に温度差が出ているとも指摘しているという。
AP通信やガーディアン紙の保守系集会・CPACに関する報道には、特に若い保守層や「反・永遠の戦争」を重視する層に不安や温度差がにじんでいる。MAGA陣営が一枚岩であるかのような従来の印象とは少し異なる実態が見えてくる。
ここで重要なのは、「MAGAが崩れる」という劇的な話ではないという点だ。中間選挙(2026年11月)で政治的に効いてくるのは、核心支持層の全面離脱よりも、無党派層・郊外の中間層・若い共和党支持者といった「周辺票」の冷え込みだ。こうした層が少しずつ離れることで、接戦選挙区や接戦州では十分な打撃になりうる。
「外交の損得は非対称」——うまくいっても得は少ない
NHKによるとバウム教授は、アメリカの外交政策では物事がうまくいっても大統領が大きな政治的利益を得ることはめったになく、逆にうまくいかなければ大きな損失を被ることになる、と述べているという。
この非対称性が今の状況のカギだ。イランへの作戦が仮に早期に収束すれば、政権への直接的なダメージは限られるかもしれない。しかし、長期化してガソリン高・米兵犠牲・説明不能な目標が積み重なれば、マイナスの影響は中間選挙に連鎖する。
外交案件が選挙の争点に変わる条件は、かなり見え始めている。それがいつ、どの指標で政治コストとして顕在化するか。11月の中間選挙まで、アメリカ世論の風向きは戦況と物価の両方に左右されながら動き続けることになる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

