「雇用保険」と聞くと、会社を辞めたときにもらえる失業給付を思い浮かべる人が多い。実際、基本手当(いわゆる失業保険)は雇用保険の中心的な給付だ。
ただし、雇用保険の守備範囲はそれだけではない。資格取得や学び直しへの支援、育児休業中の生活保障、介護休業時の補助、60歳以降も働き続ける人への支援まで、失業、再就職、育児、介護、高年齢期の雇用継続まで幅広い給付がある。
会社員にとっては身近な制度でも、「失業したときの保険」という理解にとどまっていると、制度の恩恵を十分に活かせないことがある。この記事では、雇用保険の全体像を、加入条件から主な給付の内容まで順に整理する。
雇用保険とは何か
雇用保険は、労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、生活と再就職を支えることを目的とした公的保険制度だ。保険者は政府で、実際の手続きや相談の窓口はハローワーク(公共職業安定所)が担う。
制度の目的は失業中の生活保障にとどまらない。厚生労働省の整理でも、雇用保険は以下の役割を持つ制度として説明されている。
- 失業中の生活支援(基本手当など)
- 早期再就職の促進(再就職手当など)
- 職業能力の開発・学び直しの支援(教育訓練給付)
- 育児・介護と仕事の両立支援(育児休業給付、介護休業給付)
- 高齢期の雇用継続支援(高年齢雇用継続給付)
「失業保険」という呼ばれ方が定着しているが、制度全体はこれよりもはるかに広い。
どんな人が雇用保険に入るのか
基本的な加入条件
雇用保険は、適用事業に雇用されるすべての労働者が対象になるが、加入のためには一定の条件を満たす必要がある。
一般的な加入の目安として押さえておきたいのは次の2点だ。
- 31日以上引き続き雇用される見込みがある
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
この2つを満たす労働者は、原則として雇用保険の被保険者になる。
パート・アルバイトも対象になる
雇用保険は正社員だけの制度ではない。パートやアルバイトでも、上記の条件を満たせば加入対象になる。週20時間以上働いていて、31日以上の雇用継続が見込まれるなら、雇用形態にかかわらず適用される。
「非正規だから関係ない」と思っていると、本来受けられるはずの給付を見逃す可能性がある。
今後の適用拡大
現在、週所定労働時間20時間未満の短時間労働者は雇用保険の適用対象外だが、今後の施行が予定されている改正によりこの要件が引き下げられる見込みだ。ただし施行時期や詳細は現行制度とは別に確認が必要なため、本稿では現在の加入条件を基本として整理する。
雇用保険でまず知っておきたい基本手当
基本手当とは
基本手当は、雇用保険の給付の中で最もよく知られているものだ。離職後、働く意思と能力があり、ハローワークで求職の申し込みをしている人に対して支給される。
「失業保険」という言葉はこの基本手当を指すことが多いが、制度の正式な用語は「基本手当」だ。
受給日数は一律ではない
基本手当を受けられる日数(所定給付日数)は、一律ではない。主に次の3つの要素によって変わる。
- 年齢(離職時の年齢)
- 雇用保険の被保険者期間(加入していた期間の長さ)
- 離職理由(自己都合か、会社都合・倒産・解雇かなど)
特に離職理由による違いは大きく、倒産や解雇など会社側の事情による離職(特定受給資格者や特定理由離職者)のほうが、自己都合退職より給付日数が多くなる設定になっている。
待期期間と給付制限
離職してハローワークで求職申請をしても、すぐに基本手当が支給されるわけではない。まず7日間の待期期間があり、その間は支給されない。
さらに、自己都合退職の場合は待期期間の後に給付制限がかかる。この期間中も基本手当は支給されない。なお、給付制限の期間については近年の制度見直しにより変更が行われており、最新の情報はハローワークや厚生労働省のページで確認するのが確実だ。
また、「離職すれば自動的に基本手当がもらえる」わけではない。求職活動の意思と能力があることが前提で、自営業を始めた場合などは扱いが変わることがある。
再就職を支える給付には何があるのか
再就職手当などの就職促進給付
雇用保険は失業状態を長引かせる制度ではなく、早期の再就職を後押しする仕組みも組み込まれている。
基本手当を受給している人が、所定給付日数の一定期間を残して早期に再就職した場合、再就職手当が支給されることがある。残日数が多いほど支給額が多くなる設計で、「長く失業していたほうが有利」ではないことを制度として示している。
教育訓練給付
雇用保険には、学び直しや資格取得を支える教育訓練給付という仕組みもある。厚生労働省が指定する講座を受講した場合に、受講費用の一部が支給される制度だ。
給付は3つの類型に分かれる。
- 一般教育訓練給付金:幅広い講座が対象で、費用の一部が支給される
- 特定一般教育訓練給付金:比較的早期に資格取得につながる講座が対象
- 専門実践教育訓練給付金:看護師・保育士・ITエンジニア向けなど、長期・高度な資格取得を目指す講座が対象で、支給率が高め
2024年10月からは教育訓練給付の拡充が行われており、在職中の学び直しを後押しする方向で制度が整備されている。雇用保険は離職後だけでなく、働いている間のリスキリング(学び直し)支援としても機能しつつある。
育休や時短勤務のときにも雇用保険は関わる
育児休業中の生活を支える給付も、雇用保険の給付の一部だ。一般に「育休給付」として知られているが、制度的には雇用保険の「育児休業等給付」に位置づけられる。
育児休業給付
子を養育するために育児休業を取得した場合に支給される給付で、育休開始から180日(約6か月)までは休業前賃金の67%相当、その後は50%相当が目安として示されている。実際の支給額は賃金の状況などにより異なるが、育休取得中の生活を下支えする主要な給付だ。
出生時育児休業給付
いわゆる「産後パパ育休」に関わる給付で、男性が子の出生直後に育児休業を取得する際にも支給対象となる仕組みが整備されている。
最近の新しい給付
近年の制度拡充として、新たな給付も加わっている。
- 出生後休業支援給付金:一定の要件のもとで追加的な支援を行う給付
- 育児時短就業給付金:育休終了後に育児のために時短勤務をしている期間の賃金低下を支援する給付
育休後の働き方まで支援する給付が整備されたことで、雇用保険の育児支援の役割はより幅広くなっている。
介護休業や60歳以降の雇用継続にも給付がある
介護休業給付
家族を介護するために介護休業を取得した場合にも、雇用保険から給付が行われる。介護休業給付金として、休業中の賃金の一定割合が支給される仕組みだ。
なお、介護休業を取得できる権利は育児・介護休業法に基づくものであり、休業取得中の経済的支援として機能するのが介護休業給付だ。「介護休業制度」と「介護休業給付」は別の制度要素であるため、混同しないよう整理しておきたい。
雇用保険が育児だけでなく介護にも関わることで、「失業・育児・介護」という働く上での大きな節目の多くに制度が関係していることが見えてくる。
高年齢雇用継続給付
60歳以降も働き続ける人のうち、定年後の再雇用などで賃金が大きく低下した場合を支援するのが高年齢雇用継続給付だ。60歳以降の賃金が一定以上低下した場合に支給される。
- 高年齢雇用継続基本給付金:基本手当を受給せずに60歳以降も働き続ける場合
- 高年齢再就職給付金:基本手当受給後に60歳以降で再就職した場合
厚生労働省は2025年4月から高年齢雇用継続給付の支給率を変更しており、最新の内容はハローワーク等で確認が必要だ。
高年齢者向けの給付が存在することで、雇用保険は若い世代だけでなく、定年後のライフステージにも関わる制度として機能している。
雇用保険料はどう決まるのか
雇用保険料は、事業主と労働者の双方が負担する。労災保険が全額事業主負担である点とは異なる。
ただし、折半ではなく、事業主のほうが多く負担する設定になっている。事業主は雇用保険料のほかに「雇用保険二事業分」(雇用安定事業・能力開発事業)の保険料も負担するためだ。
料率は業種や年度によって異なり、毎年度見直されることがある。労働者の保険料は給与から天引きされる形で徴収されるため、給与明細に「雇用保険料」として記載されているのが通常だ。
雇用保険で誤解しやすいポイント
Q. 雇用保険は失業したときだけの保険か?
No。育児休業給付、介護休業給付、教育訓練給付、高年齢雇用継続給付なども雇用保険の給付に含まれる。失業給付は中心的な給付の一つだが、制度全体はより広い。
Q. パートやアルバイトは雇用保険に入らないのか?
条件を満たせば加入する。週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合は、雇用形態にかかわらず加入対象になる。
Q. 離職すれば自動的に基本手当がもらえるのか?
No。ハローワークへの求職申請と、働く意思・能力があることが前提だ。待期期間(7日間)があり、自己都合退職の場合はさらに給付制限がかかることがある。
Q. 育児休業中の給付は会社が出しているのか?
No。育児休業給付は雇用保険の給付であり、国の制度として支給される。会社の制度(育児休業取得の権利)と、雇用保険の給付(育休中の収入補助)は別のものだ。
Q. 雇用保険料は会社が全額払っているのか?
No。労働者本人も給与から雇用保険料を負担している。ただし事業主のほうが多く負担する仕組みになっている。
まとめ
雇用保険は、失業中の生活を支える基本手当だけを指す制度ではない。再就職の後押し、学び直しへの支援(教育訓練給付)、育児・介護休業中の経済的支援、60歳以降の雇用継続支援まで、働く人のライフステージ全体にわたって関わる制度だ。
加入の条件は、週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあることで、パートやアルバイトも対象になる。基本手当は離職後の求職活動と結びついており、給付日数は年齢・被保険者期間・離職理由によって変わる。
育児休業給付や出生後休業支援給付金、育児時短就業給付金など、育児支援に関わる給付も近年整備・拡充されており、雇用保険は現役世代の働き方に幅広く関わる制度として位置づけられている。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

