「戦争の出口」を探り始めたトランプ政権——米イラン和平交渉の地ならしと条件の大きな隔たり

戦闘が続くなか、アメリカはすでに「次の一手」だけを考えているわけではない。

アメリカのニュースサイト「Axios」は3月21日、関係者の話として、トランプ政権がイランとの和平交渉の可能性について検討を始めたと報じた。NHKの報道によると、「交渉が始まった」のではなく、「もし交渉の機会が来たときに動けるよう、地ならしを始めた」段階だという点だ。

現時点で継続的な直通交渉チャネルは確認されていないが、最近一時的な接触が伝えられている。エジプト・カタール・イギリスが双方のメッセージを仲介しているとされており、水面下での情報のやり取りは続いている。そして今回明らかになった双方の条件を並べると、隔たりはまだ相当に大きい。


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これは「交渉開始」ではなく「予備調整」だ

まずAxiosの報道のニュアンスを確認しておきたい。

Axiosは、トランプ政権が「潜在的な和平交渉に備えた予備的な戦略立案(preliminary strategic planning)を始めた」と表現している。正式な交渉が開幕した、あるいは停戦が視野に入ってきたという話ではない。

この「地ならし」の段階が可視化されたこと自体はニュースだ。戦闘が続くなかでも、政権内に「出口戦略を考え始めている人たち」がいることを示しているからだ。Axiosは同時に、戦闘がさらに2〜3週間続く可能性も前提にしていると伝えており、和平とエスカレーションが並走する複雑な状況が続いている。


双方の「最初の条件」は大きくすれ違っている

では双方が示している条件はどんなものか。

イラン側が仲介国を通じてアメリカに伝えたとされる条件は、大きく二つある。一つは、今後また戦争が再開されないという保証。もう一つは賠償だ。

「再戦防止保証」とは、単純な停戦ではなく「いったん合意してもまた攻撃されるのでは意味がない」というイラン側の不信の表れだ。イランにとっては、2015年のJCPOA(核合意)がアメリカの一方的な離脱で消えた経験があり、約束の信頼性が大きな問題になっている。

一方、アメリカが検討しているとされる要求の中では、少なくとも次の二つが柱として報じられている。ミサイル開発計画を5年間停止すること、そしてウラン濃縮をゼロにすることだ。Axiosは計6項目を挙げているとしているが、このうち特にこの二点がイラン側にとって受け入れがたい「核心条件」になる可能性がある。


「ゼロ濃縮」と「ミサイル停止」——イランが最も飲みにくい要求

「ウラン濃縮をゼロに」とはどういう意味か。

ウラン濃縮とは、天然ウランを核エネルギーや核兵器の原料として使えるよう濃度を高める加工プロセスだ。イランは長年「平和利用のための濃縮権は国家主権だ」と主張してきた。「ゼロ濃縮」はそれを全否定する要求で、イラン国内の強硬派にとっては「主権の放棄」と映る。

参考になるのは、戦争前の2月時点の状況だ。Reutersは当時、アメリカはゼロ濃縮を要求していないと報じていた。今回の「ゼロ濃縮」要求は、戦争によってアメリカ側の交渉姿勢が強硬化しているように見える、あるいは政権内の最大要求に近い初期ポジションが前面に出ている可能性を示唆している。確定した交渉条件として読むより、「報じられている強い初期ポジション」として見るほうが実態に近いかもしれない。

ミサイル開発の停止についても同様だ。イランにとって弾道ミサイルは、空軍力の脆弱さや同盟の薄さを補う最大の抑止力だ。アラグチ外相は2月の時点で「ミサイル計画は決して交渉の対象ではない」と明言している。


「直接接触なし」の裏にある複数の仲介チャネル

今回の報道では、アメリカとイランの間に「現在は継続的な直接接触がない」とされている。だがこれは「最近は何もなかった」を意味しないかもしれない。

Axiosは3月16日の別の記事で、最近数日間にアメリカ側の特使スティーブ・ウィトコフ氏とアラグチ外相の間で直接のメッセージ交換があったと報じていた。「継続的な公式チャネル」には至っていないが、一時的な接触は起きていたと見るのが自然だ。3月21日時点の「直接接触なし」は、そうした一時的な接触が安定した交渉回線になっていないことを示していると読むほうが整合的だ。

また、仲介国の顔ぶれも変わってきている。1月末の段階ではトルコ、オマーン、カタール、サウジなどの名前が出ていた。今回はエジプト、カタール、イギリスが登場している。これは、停戦・核・ミサイル・資産凍結解除といった論点ごとに異なる国がパイプを持つ、複層的な構造になっているとみられる。


「ファックス機」——アメリカが抱える深刻な問題

Axiosの報道でひときわ注目を集めたのが、アメリカがイランのアラグチ外相を「ファックス機」と呼んだとされる箇所だ。外交的にかなり失礼な表現だが、意味しているのは「外相がメッセージを運んでくれても、合意を単独で確定できる立場ではない可能性がある」ということだ。

イランでは、核・ミサイル・戦争に関する最終判断は、外務省だけでは下られない。最高指導者ハメネイ師や最高安全保障会議を含む、より上位の意思決定機関が関わる構造になっている。

アメリカが「誰がイランで実際に決定を下しているかを特定し、連絡を取る方法を模索している」とAxiosが伝えていることは、この問題の深刻さを示す。外相と何らかの合意に至っても、最終承認権者が承認しなければ実効性が生まれない——アメリカはそのリスクを意識している。


「交渉」の実現可能性をどう見るか

今回の報道から読み取れるのは、「和平が近い」ではなく、以下のような複雑な現実だ。

アメリカ側は戦闘を続けながら、同時に出口の選択肢も探り始めた。イラン側も完全に拒絶しているわけではなく、仲介国経由で「関心はある、ただし条件次第」と伝えてきている。

しかし入口条件の段階ですでに衝突している。アメリカが「ゼロ濃縮」と「ミサイル停止」を求めるなら、イランが「平和的濃縮の権利」と「ミサイル計画の不可侵」を主張してきた立場とは正面からぶつかる。加えてイランは「再戦防止保証」と「賠償」を求めており、これもアメリカが簡単に飲める条件ではない。

こうした状況を冷静に見れば、今回の「和平交渉検討」報道は、交渉の幕開けというよりも、双方が条件の難しさを確認しながら探りを入れ合っている段階と理解するのが適切だ。


日本にとっての意味

交渉の行方は、エネルギー市場や地域の安定に直結するため、日本にとっても無縁ではない。

ホルムズ海峡の通航混乱や原油価格の変動は、イランの核・ミサイル問題が実際にどう着地するかに大きく左右される。今回の「地ならし報道」は、軍事的な応酬が一段と激化するなかで、それと並行してどんな外交的選択肢が動いているかを知る手がかりになる。

戦闘の終わり方が見えない段階でも、「どういう条件で終わりうるか」を理解しておくことは、今後の情勢を読む上での重要な視点だ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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