「48時間以内にホルムズ海峡を完全に開放しなければ、イランの発電所を攻撃し壊滅させる」——アメリカのトランプ大統領は2026年3月22日(日本時間)、SNSにこう投稿しました。
イラン側もただちに反発し、エネルギー施設が攻撃されれば地域内の米国施設も標的にすると表明。同じ時期、イランの核関連施設と核関連施設があるとされる地域でも攻撃の応酬が続いており、「戦争の論点」がホルムズ海峡・発電所・核施設・和平条件へと同時に広がる局面を迎えています。
この記事では、何が起きているのか、なぜ重要なのか、そして「日本との関係」まで含めて整理します。
まず知っておきたい:ホルムズ海峡はなぜ重要なのか
ホルムズ海峡とは、ペルシャ湾と外洋をつなぐ最も狭いところで幅約34キロの細長い水路です。中東最大の産油地帯から世界に石油を運び出す際、ほとんどの船がこの海峡を通ります。
米エネルギー情報局(EIA)のデータによると、2025年上半期にホルムズ海峡を通過した石油は1日あたり約2090万バレルで、世界の石油消費量の約20%にあたります。LNG(液化天然ガス)も世界取引量の2割超がここを通っています。
さらに重要なのは、通過した原油・コンデンセートの89%がアジア向けで、中国・インド・日本・韓国の4か国だけで74%を占めることです。つまり、ホルムズ海峡の問題は、地理的に遠い中東の出来事であると同時に、日本のエネルギー安全保障に直結する問題でもあります。
「全面封鎖」とは言い切れない——「選別通航」の可能性
まず、現在のホルムズ海峡の状況を正確に理解しておく必要があります。
「封鎖」と聞くと、すべての船が通れない状態を想像しがちですが、少なくとも一部の船には通航が認められている可能性があります。イランのIMO(国際海事機関)代表は「ホルムズ海峡は、敵の国々をのぞいて、すべての国の船舶に開かれている」と発言しています。海運業界向け情報サービスの「ロイズ・リスト」によると、イランの革命防衛隊が独自の「安全回廊」とする航路を設け、許可した船だけを通過させているとも報じられています。少なくとも9隻がこの航路を通過し、なかには200万ドルを支払ったとされるケースもあったといいます。
ただし、こうした情報はイラン側発信や個別報道が中心であり、現時点では「全面封鎖ではない」と断言できる状況ではありません。イランが一部の船舶に通航を認めている可能性がある一方、実務上は深刻な航行障害が生じているとの見方も報じられています。
トランプ大統領の「完全に開放しろ」という要求は、実質的には「イランが海峡を政治・軍事のカードとして使うことをやめろ」という意味合いを持ちます。これに対してイラン議会では、通航料を徴収する法案の準備を進めているとされており、イラン側が海峡の「管理」を停戦後の交渉材料として活用しようとしている可能性がうかがえます。
発電所攻撃の脅しはなぜ深刻なのか
トランプ大統領のSNS投稿を受け、ニューヨーク・タイムズは「イラン最大の発電所はブシェールにある、イランで唯一稼働中の原子力発電所のようだ」と指摘しています。
通常の発電所であっても、攻撃されれば停電だけでなく医療・水供給・通信・交通が連鎖的に麻痺します。原子力発電所はさらに危険度が高く、赤十字国際委員会(ICRC)は、原子力発電所は「危険な力の放出を引き起こす」施設として特別な保護が必要だと整理しています。国際人道法では、「住民に重大な損失をもたらすときは攻撃対象にしてはならない」と原則として定めています。
G7(主要7か国)外相も21日に声明を発表し、エネルギー施設を含む民間インフラへの攻撃を「最も強い言葉で非難する」としています。米・イラン双方が発電所やエネルギー施設への攻撃に言及したことで、民間インフラ攻撃のハードルが下がることへの懸念が国際社会で急速に高まっています。
核施設周辺でも攻撃の応酬
同じ3月21〜22日、核施設をめぐる攻撃も続きました。
イランの原子力庁は、中部ナタンズにあるウラン濃縮施設がアメリカとイスラエルによる攻撃を受けたと発表しました。調査の結果、放射性物質の漏えいは確認されなかったとしています。IAEAは、グロッシ事務局長が核の事故リスクを避けるために軍事行動を控えるよう求める声明を出しています。
一方、イスラエル南部のディモナでは21日、イランのミサイル攻撃で39人が病院で手当てを受けました。ディモナの郊外は核関連施設があるとされる地域で、イスラエルは公式には核保有を認めていないものの、その象徴性は非常に大きい場所です。IAEAは、近隣の「ネゲブ原子力研究センターへの被害は報告されていない」としています。
イランの革命防衛隊系メディアは「ディモナへの攻撃はメッセージだ。イランのミサイルが届かない場所はない」と伝えており、双方が核施設の象徴的な場所に踏み込む形の応酬が続いています。
和平交渉の「初期的な議論」——ただし断定は禁物
強硬な発言が続く一方で、外交の動きも出ています。
米ニュースサイトのAxiosは21日、アメリカ政府当局者の話として、トランプ政権がイランとの和平交渉の可能性をめぐり「初期的な議論」を始めたと報じました。ただし現時点では直接接触はなく、エジプト・カタール・イギリスが仲介役として双方のメッセージを伝えているとされます。
条件面でも双方の隔たりは大きいです。イラン側は「戦争が再開されないという保証」「賠償金の支払い」「地域のアメリカ軍基地の閉鎖」などを求めているのに対し、アメリカ側は「ウラン濃縮のゼロ化」「ミサイル計画の5年間停止」「核施設の廃止」など6つの条件を求めているとされます。
現段階は「停戦交渉が始まった」というより「将来の交渉の入口条件を探っている段階」と見るのが正確です。
トランプ大統領の発言は一貫していない
この間、トランプ大統領の発言は繰り返し方向が変わっています。
- 3月14日:「イランは合意をしたがっているが、私はまだ合意したくない」→攻撃継続
- 3月17日:「非常に近い将来に去るつもりだ」→早期終了を示唆
- 3月20日:「停戦したくない。相手を壊滅させているときにそんなことはしない」→継続強調
- 3月20日(同日):「大規模な軍事作戦を段階的に縮小することを検討している」→縮小示唆
- 3月22日:「48時間以内に開放しなければ発電所を攻撃する」→新たな警告
こうした発言の変遷は、トランプ大統領が意図的に予測困難な状態を演出しているのか、政権内で方針調整が続いているのか、現時点では判断が難しい状況です。
日本にとっての意味
この問題が日本に直接関係する理由は主に2点あります。
エネルギー供給への影響:日本はエネルギーの多くを中東からの輸入に頼っています。ホルムズ海峡を通るLNG・原油が不安定になれば、日本の電気料金や燃料費に影響が出る可能性があります。G7外相も声明で「石油備蓄の放出など必要な措置を講じる用意がある」としており、G7各国が対応を協調する姿勢を示しています。
核施設への攻撃リスクと核秩序:イランの核関連施設への攻撃が続くことで、核拡散防止の国際的な枠組みへの影響も懸念されます。IAEAが「軍事行動を控えるよう」繰り返し求めているのは、核施設への攻撃が単なる軍事的問題にとどまらず、国際的な核管理体制を揺るがしかねないためです。
まとめ
- トランプ大統領は「48時間以内にホルムズ海峡を完全に開放しなければ発電所を攻撃する」と警告し、イラン側は「エネルギー施設が攻撃されれば地域の米国施設を標的にする」と反発
- ホルムズ海峡については、イランが一部の船舶に通航を認めている可能性がある一方、「全面封鎖ではない」と断言できる状況ではなく、実態の把握には慎重さが必要
- ナタンズ(イラン)とディモナ周辺(イスラエル)で核施設をめぐる攻撃の応酬が続いており、IAEAは軍事行動の停止を求めている
- 和平交渉の「初期的な議論」が始まったとの報道があるが、直接接触はなく条件の隔たりも大きい。現段階は交渉の入口条件を探る段階にとどまっているとみるのが適切
- ホルムズ海峡問題は日本のエネルギー安全保障に直結しており、G7は備蓄放出など協調対応を示唆している
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

