イラン情勢が地元銀行を動かした——関西地銀が相次ぎ相談窓口と特別融資を設置した理由

中東で何かが起きると、なぜか地元の中小企業も苦しくなる。そのメカニズムを、関西の地方銀行が地域経済への波及を先回りするように動いている。

イラン情勢の緊迫化を受け、関西の複数の地方銀行が、地域の企業や個人事業主を対象にした専用の相談窓口を相次いで設置した。京都銀行や滋賀銀行は特別融資も始めており、その動きは異例の速さで展開している。なぜ銀行は今、これほど早く動いているのか。


目次

ホルムズ海峡の通航が滞ると、日本のどこに影響が出るか

まず、イラン情勢が日本の地域経済に影響する経路を整理しておきたい。

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とアラビア海をつなぐ幅わずか約50キロの水路だ。世界の石油輸送量の約2割がここを通り、日本が輸入する原油に限ればその依存度はさらに高い——日本の輸入原油のおよそ9割は中東産だ。

双方による攻撃の応酬が激化し、この海峡が事実上封鎖されると、原油タンカーの通行リスクが一気に上がる。保険料が膨らみ、輸送ルートの迂回が必要になり、結果として原油価格が上昇する

原油価格の上昇は、ガソリンや軽油の値上がりだけにとどまらない。電気代、物流費、プラスチックや包装資材、食品輸送コストなど、あらゆる「コスト」に波及する。大企業ならば価格を顧客に転嫁しやすいが、中小企業や個人事業主にはその力が乏しい。売上は変わらないのに仕入れや経費だけが増えていく——その”じわじわとした圧迫”が、資金繰りの悪化として現れる。


関西地銀が相次いで動いた

こうした状況を見越して、関西の主な地方銀行は素早く動いた。

南都銀行(本店・奈良市)は3月16日に相談窓口を設置。全99店舗で対応し、専門知識を持つ行員が資金繰りの相談に応じ、活用できる制度を提案する体制を整えた。「地域のお客様の悩みに迅速に対応するため」と担当者は話す。

京都銀行は全営業店に相談窓口を設け、「中東情勢関連特別融資」を開始した。融資金額は5億円以内、資金使途は運転資金、返済期間は最長5年だ。対象は、売上の減少や調達コストの増加に見舞われた法人および個人事業主となっている。

滋賀銀行も同時期に本支店の融資窓口で相談受付を始め、特別融資を開始している。融資上限は1億円以内で、運転資金は最長5年、設備資金については最長10年と、より長期の支援にも対応している。

りそなグループの関西みらい銀行とみなと銀行も、3月12日から全営業店で相談窓口を開設している。


なぜ銀行は「今」動くのか

ここで疑問が浮かぶ。影響が本格化する前の段階で、なぜ銀行はこれほど早く動くのか。

答えは、地域金融機関の性質にある。

地方銀行にとって、地元の中小企業は最も大切な顧客だ。中小企業の資金繰りが悪化し、連鎖的に倒産や廃業が増えると、銀行の不良債権が増え、地域の景気そのものが悪化する。つまり、企業支援は「いいことをする」ためではなく、地域経済を守ることが自分たちの経営を守ることにもなるという、合理的な判断でもある。

また、リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍といった過去の危機を経て、金融機関は「早期に相談窓口を開け」という教訓を身に染みている。問題が深刻になってから動いても、打てる手が限られる。「まだ大丈夫」と思っている企業が相談に来やすい環境を先に作ることが、被害を最小化する。


影響を受けやすい業種とは

関西でとくに注意が必要なのは、燃料費や輸送費・仕入れコストに敏感な業種だ。製造業、運輸・物流、外食、観光、農業などが代表例として挙げられる。

輸送費が上がれば運輸会社の利益は直撃される。原材料の仕入れコストが増えれば、製造業や外食は価格転嫁か利益圧縮かの二択を迫られる。観光業では、航空燃料の高騰がツアー料金に跳ね返ってくる可能性がある。

現時点では、イラン情勢が長期化するかどうかは不透明だ。ただ、短期の相談窓口にとどまらず、中期の資金支援まで想定した設計にも見える。京都銀行と滋賀銀行の特別融資が最長5〜10年の期間設定になっていることは、その一つの根拠となり得る。


中東の情勢が地元の相談窓口につながる

「イランとアメリカの問題が、なぜ地元の銀行に関係するのか」と感じる人は多いかもしれない。だが、エネルギーを海外に依存する日本では、地政学リスクは「遠い話」ではなく、コスト上昇を通じて身近な事業者に波及する現実がある。

関西の地銀が相談窓口を設けた事実は、その波及経路がすでに動き始めていることを示している。経営者や個人事業主にとっては、「困ってから相談する」より、「何かあれば窓口がある」と知っておくだけでも、いざというときの対応に余裕が生まれる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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