3月20日午後、韓国中部の大田(テジョン)市にある自動車部品メーカーの工場で火災が発生し、21日夕方までに行方不明だった14人全員の死亡が確認された。59人が重軽傷を負っており、負傷者を含めた死傷者は73人に達した。出火原因はまだ調査中だが、なぜこれだけの犠牲が出たのか——現場で起きていたことを振り返ると、複数の要因が重なっていたことが見えてくる。
「休憩時間中」に火は広がった
火災が起きたのは、エンジン関連の部品を製造する工場だ。AP通信などの報道によれば、この工場は現代自動車と起亜自動車向けの部品を供給している企業だという。当時、工場にはおよそ170人が勤務しており、休憩時間中の人も含まれていた。
遺体が多く見つかったのは建物の3階。AP通信によれば、3階にあったジムやロッカールーム周辺に犠牲者が集中していたという。これは「休憩中の従業員が、作業場から離れた場所にいた」ことと重なる。煙や熱、避難経路の問題が重なった可能性があり、避難経路がどう機能したかは今後の捜査の焦点になる。
火災そのものは20日夜遅くに消し止められたが、消防が建物内部の捜索を本格化できたのは翌21日になってからだった。
なぜすぐに救助に入れなかったのか
最終的な死者数が14人に達した背景には、救助活動の困難さがある。
まず、建物が倒壊する危険があり、消防隊は直ちに内部へ入ることができなかった。そこで消防当局は、無人の消防ロボットを使って内部の冷却を進めながら安全を確認し、段階的に捜索へ移行したという。
さらに問題を深刻にしたのが、工場内に保管されていた「反応性化学物質」の存在だ。The Guardianによれば、200キログラム以上の反応性化学物質があり、水と接触すると急激に反応する物質も含まれていたという。反応性化学物質とは、水や熱に触れると燃焼や爆発を助長する物質のことで、通常の放水消火が逆効果になることもある。こうした物質が現場にある場合、消防は進入方法や消火手段を慎重に選ばなければならず、その分だけ救助にかかる時間が長くなる。
「消火が遅れた」のではなく、「安全に入れる状態になるまで時間がかかった」という構造が、今回の被害拡大の一因と考えられる。
韓国では製造業の重大火災が繰り返されている
今回の事故が特に注目されるのは、韓国で重大工場火災が相次いでいるからだ。
記憶に新しいのは2024年6月、京畿道の華城市にある電池メーカー「アリセル」の工場で起きた火災だ。この事故では23人が死亡し、多くが外国人労働者だった。避難経路が複雑で、言語の壁から避難指示が届かなかったことなどが被害を拡大させたとして、外国人労働者の安全教育や法的保護のあり方が大きな社会問題になった。
今回の大田の工場火災では、NHKや韓国メディアは「行方不明者に外国人労働者はいないとみられる」と伝えている。ただし、こうした重大火災が製造業の現場で繰り返されているという構造自体は変わっていない。
韓国には「重大災害処罰法」という法律がある。重大事故が起きた際に、安全確保義務を怠った企業の経営責任者を罰則の対象にする制度だ。今回のような多数死傷事故では、火災の原因究明と並行して、企業側が法律に定められた安全措置を講じていたかどうかも問われることになる。
サプライチェーンへの影響は?
APなどが報じるように現代・起亜向け部品工場だとすれば、生産停止が自動車の組み立てに影響を与える可能性もある。自動車は数万点もの部品で構成されており、特定の部品が止まると完成車の製造が滞りやすい。2025年5月の光州・錦湖タイヤ工場火災でも、生産停止が自動車メーカーの供給に影響する可能性が指摘された。
ただし今の段階では、供給への具体的な影響はまだ明らかになっていない。
これから明らかになること
警察と消防は、火災原因の調査を本格化させる方針だ。今後の焦点として考えられるのは、次のような点だ。
- 出火した階と出火の原因(電気系統の問題か、化学物質の取り扱いか)
- スプリンクラーや火災警報器が正常に作動していたかどうか
- 非常口の数と位置、避難訓練の実施状況
- 反応性化学物質の保管・管理が適切だったかどうか
- 企業側の安全衛生管理体制(重大災害処罰法の対象になるかどうか)
遺体の身元確認が急がれており、遺族への連絡も進んでいる。14人がなぜ逃げられなかったのか——その答えは、これからの捜査が明らかにしていくことになる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

