「農業が続けられるのかと思っている生産者もいる」——鈴木農林水産大臣は3月19日の閣議後会見で、そう語った。この冬の記録的な大雪で、東北各地のりんごや梨の産地では枝が折れ、幹が割れる被害が相次いでいる。単なる「今年の天候被害」にとどまらない深刻さを農水省が認識し、栽培方法そのものを見直す動きに踏み出している。
「枝が折れる」被害が長く尾を引く理由
東北地方では例年以上の積雪があり、青森・秋田・山形などで果樹への被害が広がっている。りんごやなし、ぶどう、おうとう(さくらんぼ)など複数の果樹で枝の折れや幹の裂傷が確認されており、農水省の調査でも被害は青森、秋田、山形など東北の複数県に及んでいることが分かっている。
なぜこれほど深刻に受け止められているのか。理由は、果樹が野菜と根本的に異なるからだ。
野菜であれば、被害を受けても次のシーズンに別の苗を植えれば再起できる。しかし果樹は木そのものが生産設備だ。りんごやなしは、何年もかけて枝を整え、日照や収量を最大化できる樹形を作り上げていく。その骨格となる幹や主枝が傷むと、当年の収穫を失うだけでなく、翌年以降の着果にも影響が出る。一度崩れた樹形は、回復に年単位の時間がかかる。
地元報道によると、秋田では農業被害額が最終的に20億円前後に膨らむ見通しとされており、地元では「2年連続の被害」「去年より大きい」という声も上がっている。単年の損失にとどまらない影響を、現場が肌で感じていることが伝わってくる。
農水省が見据えるのは「改植」と「苗木確保」まで
今回の農水省の対応が注目されるのは、単に復旧支援にとどまらず、栽培方法を根本から見直す議論に踏み込んだ点だ。
農水省は来月、東北6県の担当者を交えた検討会を立ち上げる予定で、論点として以下の3つが浮上している。
①雪に強い栽培方法の普及
りんごでは、木に雪が着きにくくなるよう枝を下向きに伸ばす栽培方法や、高密植栽培(細身の木を密度高く植える方式)の導入が検討される。こうした方法は除雪や支柱補強といった応急措置と違い、木の形そのものを雪害に強い設計に変えるという発想だ。
②なしへの対応研究
なしについては、過去に大雪による大規模被害の事例が乏しく、改植が必要かどうかの判断も難しい状況にある。今後、研究機関と連携した継続的な検討が行われる見込みだ。3月24日には専門家を現地に派遣し、被害樹の改植の要否を調査する予定になっている。
③苗木の供給力強化
これが見落とされやすい論点だ。もし各地で一斉に改植(傷んだ木を抜き、新しい苗木を植える)が進むと、需要に対して苗木の供給が追いつかなくなるおそれがある。農水省がこの問題を最初から議題に入れたのは、過去の経験や生産現場の声を踏まえた慎重な判断とみられる。
「復旧」ではなく「再設計」が問われている
今回の対応を単なる災害支援として見ると、見えてこない部分がある。
2年続けて雪害が発生したことで、従来の復旧支援だけでは産地維持が難しい可能性が意識され始めている。農水省の会見でも、鈴木農水相は「少しでも前に進めるようにしていきたい」と語ったが、「前に進む」先として想定されているのは、これまでと同じ産地の姿ではなく、雪害を前提とした栽培体系への転換だ。
果樹産地の維持という観点からすれば、これは「復旧」ではなく「再設計」に近い課題だ。りんご大国・青森や梨の産地を抱える秋田などにとって、果樹農業は地域経済の基盤でもある。一度失われた産地の力は、苗木を植え直したからといってすぐには戻らない。今後の焦点は、検討会が栽培方法の普及や改植支援、苗木確保まで具体策に落とし込めるかにある。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

