イラン情勢の悪化を受けて、ガソリン価格の上昇や工場の燃料不足といったニュースが相次いでいる。では電気はどうなのか——電力への影響を気にする向きもある。
大手電力会社でつくる電気事業連合会(電事連)の森望会長は、3月19日の定例会見で「たちまちに安定供給に影響が出ることはない」と述べた。火力発電の主力燃料であるLNG(液化天然ガス)の調達先を多角化した結果、ペルシャ湾内からの輸入は全体の6%程度にとどまっているためだ。
ただし森会長は同時に、「事態が長期化すればLNGの需給が逼迫するおそれもある」とも語った。この”短期は耐えられるが、長期は別問題”という二重のメッセージが、今の状況を正確に表している。
LNGとは何か——なぜ電力に欠かせないのか
LNG(液化天然ガス)とは、天然ガスを極低温で液化したものだ。火力発電の燃料として広く使われており、石炭よりもCO2排出量が少ない。また、太陽光や風力といった再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するため、その変動を補う「調整役」としてもLNG火力は重要な役割を担っている。
日本は2011年の東日本大震災・原発停止以降、LNG依存度が大きく高まった。現在も電力供給の安定を支える主力燃料であり、停電リスクを語るうえで欠かせない資源だ。
「6%」という数字が意味すること
電事連が示した「ペルシャ湾内からの輸入が6%」という数字は、どの程度の安心材料なのか。
日本のLNG調達先は、オーストラリア、マレーシア、米国、ロシア(ただし現在は一部停止)などに分散されており、中東(ペルシャ湾内)への直接依存は相対的に低い。Reutersによれば、日本のLNG輸入に占める中東依存はおよそ11%で、そのうちホルムズ海峡経由が約6%とされており、電事連が示した数字とおおむね整合する。原油の場合、中東依存度が約95%に達することと比べれば、構造的な耐性ははるかに高い。
この多角化は、過去のエネルギー危機の教訓を踏まえて意識的に進められてきたものだ。「電力は大丈夫」という今回のコメントは、この積み重ねに基づいている。
ただし、「6%しか依存していないから問題ない」と単純に読み取るのは危うい。
直接依存が低くても「間接影響」は避けられない
LNGは国際市場で価格が連動しやすいエネルギー商品だ。ホルムズ海峡(ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅約50キロの海峡)を通過するLNG量が世界市場で減れば、欧州やアジアの電力会社がより高値で他の産地のLNGを買い付けようとする。そうなると、日本もスポット市場(その都度の買い付け市場)でより高いコストを払わざるをえなくなる可能性がある。
国内のLNG火力大手・JERAの幹部は、中東の供給が長く停止すれば、買い手が北米など非中東産のLNGに殺到し、価格が上昇すると述べている。つまり、直接の調達ルートの問題ではなく、世界のLNG需給全体が逼迫することで間接的に影響を受けるという構造だ。
さらに、この懸念を一段強める動きも伝えられている。Reutersは3月19日、イランによるカタールのラスラファンLNG施設への攻撃と、カタールのLNG供給能力の一部停止を報じた。カタールは世界有数のLNG輸出国であり、仮にこの影響が長引けば、世界市場での逼迫リスクは現時点で想定されるより大きくなる可能性がある。
政府はすでに長期化リスクをにらんだ対応に入っている
「当面は大丈夫」と言いつつも、日本政府はすでに事態の長期化に備えた動きを見せている。経済産業省は今月、オーストラリア政府に対してLNGの増産を要請したと伝えられている。
オーストラリアは日本最大のLNG供給国の一つであり、調達多角化の核心に位置する。増産要請は、「今すぐ不足している」からではなく、長期化リスクをにらんだ対応と受け止められる。
電気料金への影響については、森会長も「今は見通せない」とした。長期契約で調達している比率が高ければ急激な価格上昇は抑えられるが、長期化した場合にスポット価格の上昇が燃料費調整額(電力会社が燃料価格変動を電気料金に反映させる仕組み)を通じて家庭の電気代に波及する可能性は否定できない。
電力だけ見ると「まだ大丈夫」——ただしエネルギー全体では別の話
今回のニュースが示すのは、イラン情勢のエネルギーへの影響が「均等」ではないという点だ。
原油は中東依存度が極めて高いため、すでに価格面での影響が顕在化している。石油化学製品の値上げ、製鉄所の発電設備停止、菓子工場の操業休止といった具体的な出来事がその証拠だ。
一方、LNGは多角化が進んでいるため、電力への影響はすぐには出にくい。ただし、「時差」があるだけで、事態が長引けばじわじわと波及してくる——現時点ではその段階にある。
「原油は直撃、LNGは時差で波及」という整理が、エネルギー全体の構図を最もよく表している。今はまだ「電力は大丈夫」の段階にあるが、どの程度の期間なら耐えられるのか、その先に何が待っているのかは、イラン情勢の今後次第だ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

