ホルムズ海峡をめぐる問題は、「事実上の封鎖が起きているか否か」から、「誰の船を、どの条件で通すのか」という段階に移りつつある。アメリカは多国間の護衛連合づくりを急ぎ、日本・韓国・中国・欧州に協力を求める。一方のイランは「一部の国の船には安全を提供できる」と発信し、海峡の通行を外交交渉のカードとして使い始めている。
各国はそれぞれの事情を抱えながら、この新しい構図の中で立場を定めようとしている。
アメリカ——「負担を分担せよ」
アメリカのライト・エネルギー長官は3月15日、ABCテレビのインタビューに対し、「海峡の商業航行を正常化させるため、世界各国が幅広い連合を組むことは非常に理にかなっている」と述べた。事実上の封鎖状態が続くホルムズ海峡について、最も影響を受けるのは中国をはじめ日本や韓国などアジアの国々だとも指摘した。
同長官はNBCテレビのインタビューでも、複数の国と安全確保をめぐって協議しているとした上で、「目的を達成するために他国から支援が得られることは間違いない」と自信を示した。また、紛争は今後数週間のうちに終結するとの見通しも示し、戦闘が終われば原油価格は下がるという見方を示した。
米報道によれば、トランプ政権は早ければ今週中にも、複数の国がホルムズ海峡を航行する船舶の護衛に向けた連合を結成することで合意したと発表する見通しだという(ウォール・ストリート・ジャーナル)。ただし、護衛開始の時期については、戦闘の終結前になるのか後になるのか、なお協議が続いているという。
FTによれば、トランプ大統領はNATOに対しても「十分に助けなければ非常に悪い未来が待っている」と警告したとされており、同盟国への圧力は強まっている。アメリカのメッセージは一貫している。「海峡が事実上の封鎖状態に陥って最も困るのはアジアの輸入国なのだから、米国だけが費用と危険を負うのは筋が違う」という論理だ。
イラン——「通航を自ら管理できる」と誇示
イランのアラグチ外相は3月15日、CBSテレビに出演し、船舶の安全な航行を求める複数の国から接触があると主張した上で、軍の判断によっては一部の国の船舶の安全な航行に応じる余地があると示唆した。
この発言は、「航行の自由を全面的に回復する」という意思表示ではない。むしろ、どの国の船を通し、どの国の船を通さないかをイラン側が選択できると示すことで、各国を個別に取り込もうとする外交的な動きと読める。
同外相は停戦や対米交渉については否定的な姿勢を示した。「われわれは必要な限り自衛する用意がある。停戦を求めたことも、交渉を求めたこともない」と述べ、「われわれが貿易を閉ざしたのではなく、アメリカの侵略が不安定をもたらしているせいだ」と強調した。
ただし、イランが「一部の国に安全な通航を保障している」という主張について、独立した形での確認はできていない点には留意が必要だ。
欧州——「貢献はするが、どこまでかは慎重に」
イギリスのミリバンド・エネルギー安全保障相は3月15日、公共放送BBCで「機雷探知型のドローンを含め、われわれが貢献できる方法はいくつかある」と述べ、同盟国とともに選択肢を検討していることを明らかにした。スターマー首相もトランプ大統領と電話会談し、事実上の封鎖状態が続くホルムズ海峡の航行の自由回復の重要性について意見を交わしている。
フランスのマクロン大統領は15日、イランのペゼシュキアン大統領と電話会談し、「イランが周辺諸国に対して行っている受け入れられない攻撃をただちに終わらせるよう求めた」と明らかにした。マクロン大統領はホルムズ海峡についても「できるだけ早く航行の自由を回復すべきだ」と訴えた。なお、イラク北部に駐留するフランス軍は今月12日に攻撃を受け、兵士1人が死亡している。
欧州の立場を一言で言えば、「海峡の商業航行正常化の必要性は認める、しかし軍事的関与の深さは慎重に見極める」という姿勢だ。参加の形も、艦艇の直接派遣よりも機雷対処ドローンなど限定的な手段から検討されている。
日本——最も影響を受けるが、最も動きにくい立場
日本は原油輸入の大半を中東に依存しており、ホルムズ海峡の混乱はガソリン代・電気代・物流コストに直結する。エネルギー面では事態の当事者の一人だ。
しかし高市首相は3月16日、現時点で護衛任務のための艦船派遣は計画していないと表明した(ロイター報道)。背景には憲法・安全保障法制上の制約と、海外での軍事的任務に対する国内ハードルの高さがある。
そのため日本は、軍事面での関与より先に、エネルギーの内政対応を前倒ししている。IEAの協調備蓄放出に参加し、国家備蓄の放出を開始するとともに、共同備蓄分の追加放出の可能性にも言及している。海峡の商業航行正常化に自ら関与しにくい分、供給の手当てを早めに確保しようとする動きだ。
戦闘の現状——攻撃は広い範囲で継続
3月15〜16日現在、攻撃の応酬は中東全域に広がっている。
UAEの国防省とバーレーン軍はSNSでイランからのミサイル・無人機攻撃に対応していると明らかにし、サウジアラビアはリヤド周辺で4機の無人機を迎撃、クウェート当局も無人機への対応を発表した。3月16日にはドバイ国際空港近くで無人機攻撃があり、燃料タンクに被害が出た(けが人なし)。
イスラエルは15日もイランへの空爆を継続し、CNNによればイスラエル軍報道官は「少なくとも約3週間後のユダヤ教の祭日まで攻撃計画がある」と述べた。イランも対イスラエルへのミサイル攻撃を繰り返しており、イスラエル中部で15日に6人が負傷している。
なお、アメリカの新興メディア「セマフォー」は14日、イスラエルが迎撃ミサイルなどの不足をアメリカ側に伝えたと報じたが、イスラエルの外相と軍関係者はこれを否定した。
この先の焦点
今後を占う上で重要なのは、以下の3点だ。
①米国主導の護衛連合は本当に発足するのか
米報道が伝えた「今週中の発表」が実現すれば、海峡の安全確保に向けた国際的な枠組みが一歩前に進む。ただし、発表と実際の護衛開始の間にはタイムラグがある。
②イランの「選別通航」はどこまで広がるか
イランが「一部の国の船は通す」という姿勢を維持するなら、各国はひそかに個別交渉を始める可能性がある。これは「連帯で航行の自由を守る」のではなく「二国間の取引で切り抜ける」という形になりかねず、国際的な通商秩序とは異なる結果をもたらしうる。
③備蓄放出の効果と限界
IEAの過去最大規模の協調備蓄放出は、価格の急騰を一時的に和らげる効果がある。しかし、それは時間稼ぎだ。海峡の物理的な安全が回復しなければ、保険や輸送コストの高止まりは続き、原油供給の不安定も解消されない。
ホルムズ海峡の問題は、「通れるかどうか」から「誰が、誰の許可で通るのか」という新しい段階に入っている。この構図が長続きするほど、世界のエネルギー市場にとっての不確実性は高まる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

