双日が豪州でレアアース新鉱山開発へ ライナスと基本合意、日本の調達力強化に一手

スマートフォン、電気自動車、ロボット、風力発電——現代の産業を支える製品の多くに、「レアアース」と呼ばれる素材が使われている。そしてそのレアアースは今、地政学的なリスクの中心にある。採掘から精製まで、供給の多くを中国が握っているからだ。その依存度を引き下げようと、日本の商社大手・双日が動いた。3月13日、オーストラリアのレアアース大手ライナス・レアアースズと、新たな鉱山の開発に向けた基本合意を結んだと発表した。


目次

今回の合意で何が決まったのか

双日はJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)との合弁会社JARE(Japan Australia Rare Earths、日豪レアアース)を通じて、すでにライナスへの出資と、西オーストラリア州の鉱山でのレアアース開発を手がけてきた。今回の基本合意は、その関係をさらに一歩前に進めるものだ。

具体的には、既存鉱山の拡張に加え、オーストラリア国内外での新たなレアアース鉱山の探鉱・評価、そして精製に必要な設備の検討まで含む内容だ。3月13日、双日の植村幸祐社長がライナスのラカーズ社長とオーストラリアのブリスベンで会談し、合意書に署名した。

植村社長は「候補はいくつかあり、質の高い鉱山を一緒に見つけていく。経済安全保障を考えると新しい鉱山の確保は重要だ」と述べている。


「夢物語」ではない——すでに始まっている実績

今回の合意が単なる将来計画ではなく、すでに進む動きの延長線であることは強調しておきたい。双日の発表によると、2023年に結んだ長期供給契約に基づき、2025年10月から日本向けに重希土類の輸入を開始している。日本が中国以外からこうした希少なレアアースを輸入するのは初めてのことだったという。

さらに、ロイターが伝えた3月10日の報道によると、今回の基本合意と並行して長期供給契約の改定も進んでいる。改定後の内容として、ライナスは年間5,000トンのネオジム・プラセオジムを日本向けに供給するとされており、重希土類酸化物の供給についても日本向けのコミットメントを強める内容となっている。つまり今回の新鉱山開発合意は、供給契約の強化と開発拡張をセットで進める流れの一部として位置づけられる。


レアアースと「中国依存」の本質

レアアースとは、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウム、サマリウムなど17の元素の総称だ。名称に「レア」とつくが、地球上にほとんど存在しないというより、採掘後の分離・精製が非常に難しいことが特徴だ。高性能磁石や電子部品、EV、風力発電機、防衛装備など、現代産業の広い領域で使われている。

中国はこのレアアースの採掘の約6割を占めている。しかし問題の本質はそれだけではない。採掘だけでなく、分離・精製においても中国への依存度が大きい。レアアースは採掘しただけでは使えず、元素ごとに分離して精製する工程が必要だ。USGSはレアアース統計を継続的に公表しており、採掘以上に処理・精製でも中国の存在感が大きいことを示している。地政学的な緊張が高まれば、原料だけでなく中間材や加工品まで輸出規制の対象になりうる——これが「中国依存」の怖さだ。

今回の基本合意に「精製設備の検討」が含まれているのも、鉱山権益を持つだけでは不十分であり、分離・精製まで含めた供給網をどう作るかが課題だと両社が認識しているからとみられる。


重希土類と、EVへの広がり

レアアースの中でも、今回特に注目されているのが「重希土類」と呼ばれるグループだ。ジスプロシウムやテルビウムといった元素は、高温環境でも磁力が落ちにくい高性能磁石の製造に使われる。電気自動車のモーターは高い熱を発生するため、こうした耐熱性の高い磁石が必要になる。EVの普及が進めば進むほど、重希土類の需要も増えていく。

双日とライナスの連携が評価されるのは、この重希土類でもすでに日本向け供給実績があるからだ。


今回の提携で何が変わる可能性があるか

今回の基本合意によって、日豪のレアアース連携はより広がりを持つ段階に入りつつある。双日の公式発表では、2026年度第1四半期からサマリウムの日本向け輸入も開始するとされており、新たな元素も追加していく方針が示された。ロイターも2月の報道で、ガドリニウム、イットリウムなど取り扱い元素の拡充が進んでいると伝えている。

単一品目の代替調達から、複数品目にわたる非中国サプライチェーンの形成へ——その広がりが今回の合意の意味だ。ただし、それはあくまで「方向性」の話であり、実際の鉱山候補の選定、投資判断、商業生産の開始までには時間がかかる。


JOGMECが関わる意味——経済安全保障案件として

今回の取り組みが、双日単独ではなくJAREという枠組みで進んでいることも重要だ。JOGMECは日本政府系の資源支援機関で、民間企業だけでは負担しにくい資源開発の初期リスクや資金調達を国として支える役割を担う。つまりこの話は、企業の事業戦略であると同時に、日本の経済安全保障政策の一環でもある。

米国や同盟国も重要鉱物の対中依存低減を政策課題として掲げており、日本の動きはその大きな潮流の一部として国際的にも理解されている。


「基本合意」の段階——冷静な整理も必要

現時点ではあくまで「基本合意」であり、どの鉱山を開発するのか、投資額はいくらか、いつ商業生産に入るのかといった具体的な条件はまだ決まっていない。今後は鉱山候補の探査・評価を進め、精製設備についても検討していく段階だ。

「日本の調達不安が解消する」という段階では、現時点ではない。採掘、評価、投資判断、開発、そして商業生産——長い道のりが続く。

ただ、すでに重希土類の輸入実績があり、供給契約の強化も同時に進んでいる今、この基本合意は積み上がった連携の上に置かれた「次の布石」と評価するのが適切だろう。


まとめ

双日とライナスの今回の動きを一言で表すなら、「日本のレアアース調達を非中国ルートで厚くするための、着実な一手」だ。

採掘から精製まで特定の国への依存を下げることは一朝一夕にはいかないが、実績を積みながら品目と供給量を広げていくアプローチが着実に進んでいる。今後、商業生産につながるかどうかは探査・評価の結果次第で不確定だが、動きの方向性は明確だ。中長期で日本の資源調達の地図がどう変わるか、引き続き注目に値する。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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