IMFが警告 中東情勢長期化で原油高・世界成長に下押し圧力

コロナ禍の傷がようやく癒え、世界経済はゆっくりと回復軌道に乗り始めていた。インフレも落ち着きつつあり、一部の主要中銀では利下げを視野に入れる局面に近づいていた。ところが中東情勢の緊迫化が、その流れを一変させつつある。IMF(国際通貨基金)のトップが来日し、「世界経済の回復力が再び試されている」と強い言葉で警告を発した。


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IMF専務理事が東京で語った警戒

3月13日夜、都内のホテル。シンポジウムに出席するために日本を訪れていたIMFのクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事が、NHKなどの取材に応じた。

専務理事は、中東情勢が緊迫化する前の状況をこう整理した。「世界経済はコロナ禍などから回復し、インフレも減速していた」。つまり、良い方向に向かっていたということだ。

しかし今、その前提が揺らいでいる。中東の緊張によってエネルギー価格は上昇圧力にさらされており、「世界経済の回復力が再び試されている」と専務理事は指摘した。


「価格が10%上がるごとに」という数字の重み

IMFが示した試算は、具体的だ。エネルギー価格が10%上昇するごとに、物価上昇率は約0.4%上がり、成長率は0.1〜0.2%低下するという。

一見小さな数字に見えるかもしれないが、エネルギー価格が長期にわたって高止まりした場合、この影響は積み重なっていく。たとえば原油価格が今後数か月で30〜40%上昇した場合、インフレ率は1%超押し上げられ、成長率は0.3〜0.8%程度下押しされる計算になる。世界全体でこれが起きれば、IMFの1月見通しで3.3%と見込まれていた世界成長率に対して、下振れリスクが強まる可能性がある。


スタグフレーション懸念が再浮上する理由

中東情勢の長期化が招く深刻なリスクとして、専門家の間で警戒されているのが「スタグフレーション」だ。スタグフレーションとは、物価が上がり続ける(インフレ)のに、経済成長は鈍るという、最も対処しにくい経済状態のことをいう。金利を上げれば物価は抑えられるが成長がさらに鈍る。金利を下げれば成長を支えられるが物価はさらに上がる——板挟みの状況だ。

2021〜2023年にかけて欧米各国が経験した高インフレは、各国中銀が急速な利上げで対応することでひとまず沈静化した。しかし、エネルギー価格の高騰が再び長期化すれば、そのプロセスを逆回しにするリスクが生じる。

3月13日時点では、WTI原油は98.71ドル、ブレント原油は103.14ドルまで上昇したとされており、すでに価格高騰の兆候が出ている。ロイターによれば、原油高によって各国中央銀行の利下げ観測が後退しつつあるという。


金融政策はどう難しくなるのか

原油高が長引くことで、特に難しい立場に立たされるのが各国の中央銀行だ。

米国のFRB(連邦準備制度理事会)は、インフレが再燃すれば利下げを急げなくなる。これは株式市場や不動産市場への影響を通じて、世界経済全体に波及する。日本銀行も、ようやく金融正常化の道筋をつけようとしていた矢先に、新たな物価上昇圧力に直面する形となる。

「利下げで景気を支えたい」という意向と「インフレを抑えなければならない」という制約が、同時に存在する状況だ。


なぜ日本への影響が特に大きいのか

ゲオルギエワ専務理事は、「日本を含むアジアなどのエネルギー輸入国はその影響がより深刻になる」と明言した。なぜ日本への打撃が大きいのか。

理由は構造的だ。日本はエネルギー自給率が極めて低く、石油・天然ガスのほぼすべてを輸入に頼っている。原油価格が上がれば、そのままガソリン代・電気代・ガス代として家計に跳ね返ってくる。さらに、企業の製造コストや物流コストも上昇するため、幅広い商品・サービスの値上がりにつながりやすい。

加えて、足元で円安が進行していることも逆風だ。原油は国際市場でドル建てで取引されるため、円が安くなるほど輸入コストはさらに膨らむ。「原油高」と「円安」が重なると、日本の輸入物価は二重に押し上げられる構造になっている。ロイターによれば、日本政府が急激な円安と原油高の組み合わせを強く警戒しているという。


IMFが求める「慎重な政策」とは何か

ゲオルギエワ専務理事は、各国に対して「財政の余力を蓄えるため慎重な金融・財政政策を維持し、協調して対応することが重要だ」と求めた。

ここでいう「慎重な政策」とは、単純な緊縮財政を意味するわけではない。大規模な財政出動で需要をさらに刺激してインフレをあおることを避けつつ、一方で家計や企業への物価高の打撃をどう和らげるかのバランスをとる——という意味合いが強い。また、財政余力を残しておくことで、状況がさらに悪化した場合に対応できる「余裕」を確保しておくことも含んでいる。

「協調」という言葉も重要だ。エネルギー危機は一国だけでは解決しにくい問題であり、IEAの協調放出のような国際的な連携が不可欠という認識がIMFにはある。


今後の注目点

現時点では、中東情勢がいつ、どのように落ち着くのかは不透明だ。専務理事も「今後も不確実性が高い状況が続くことが見込まれる」と述べており、楽観できる材料は少ない。

今後の展開を読む上でのポイントは、主に3つだ。

①原油価格がどこまで上昇し、どれほど続くか。 一時的な高騰であれば影響は限定的だが、ホルムズ海峡などの輸送ルートの障害が長引けば、価格は高止まりしやすくなる。

②各国中銀が利下げを先送りするかどうか。 FRBや欧州中央銀行(ECB)が利下げを見送れば、世界的に資金調達コストが高い状態が続き、企業投資や個人消費が冷え込みやすくなる。

③日本の物価・景気への波及がどの程度になるか。 政府の備蓄放出や補助金政策が緩衝材として機能するか、市場全体の動向と合わせて注視が必要だ。

回復しかけていた世界経済に、また新たな試練が訪れている。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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