商社が核融合の「周辺産業」を押さえ始めた──三井物産・住友商事の投資が示す新局面

「夢の発電」と呼ばれてきた核融合。だが今、大手商社が仕掛けている投資は、発電の実用化を待つ話ではなくなっている。三井物産と住友商事がそれぞれ2026年2月から3月にかけて核融合関連ベンチャーへの出資を発表した。その中身を見ると、商社が描く戦略の輪郭が見えてくる。


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核融合とは何か、なぜ今なのか

核融合発電とは、太陽の内部で起きている反応を人工的に再現し、軽い原子核同士を融合させて大きなエネルギーを取り出す技術だ。発電時のCO2排出が少なく、燃料資源の枯渇リスクも比較的低いとされており、次世代エネルギーとして世界中の企業や研究機関が開発を進めている。各国が2030年代の実用化を目指す、という目標が語られるようになって久しい。

ただし、現実は容易ではない。超高温のプラズマ(電離したガス)を安定的に閉じ込め、継続的にエネルギーを取り出すのは非常に難しい。炉そのものだけでなく、強力な磁石、耐久性の高い材料、燃料の循環システム、放射線の遮蔽技術など、多くの要素技術が揃わなければ商用化にはたどり着けない。

では、なぜ商社がいま動いているのか。答えは「発電所が完成するまで待つのではなく、その周辺から先に入り込む」という発想にある。


三井物産の狙い──核融合に欠かせない素材「ベリリウム」

三井物産(東証プライム・8031)が2026年2月に出資したのは、青森県のスタートアップMiRESSOだ。この企業が手がけているのは、核融合設備で使われる可能性がある重要素材「ベリリウム」の低コスト製造技術の開発である。

ベリリウムとは、軽量でありながら熱特性や中性子特性に優れた希少金属だ。もともと産出量が少なく、製造コストも高い。MiRESSOは鉱石から低コストでベリリウムを取り出す独自技術を持ち、青森県八戸市でパイロットプラントの整備を進めている。2027年度中のベリリウム生産開始を目指すとしており、2030年代初頭の本格供給を視野に入れる。2026年2月には総額約42億円の資金調達を完了した。

三井物産が期待するのは、商社のネットワークを活かした事業拡大だ。つまり、「核融合が広がれば、その材料を供給できる立場でいる」という構図である。発電の実現を待つよりも前に、供給網の入り口を押さえようという発想だ。


住友商事の狙い──「発電以外」の核融合ビジネス

一方、住友商事(東証プライム・8053)が出資したのは、米ウィスコンシン州のSHINE Technologies(非上場)だ。こちらは性格がやや異なる。

SHINEが事業化しているのは、核融合技術そのものに加え、核融合反応で生じる中性子を活用した医療用アイソトープの製造、中性子を使った非破壊検査、放射性廃棄物のリサイクルなどの周辺分野だ。医療用アイソトープとは、がんの診断や治療に使われる放射性物質の一種で、世界的に安定供給が課題となっている分野である。

住友商事は2025年4月にSHINEと戦略提携を結び、2026年3月に出資に踏み切った。住友商事エネルギートランスフォーメーショングループの担当者は「一つ一つの技術のレベルが非常に高いので、既存の産業に転用させることで思ってもいない付加価値が生まれる」と述べている。

つまり住友商事は、「核融合発電が実用化するかどうか」に関わらず、その技術から派生する産業を押さえに行っているわけだ。


世界の核融合投資は「桁違い」の規模に

こうした日本の商社の動きは、世界的な資金流入の一部でもある。

国際原子力機関(IAEA)によると、2025年時点で民間からの核融合投資は全体で累計100億ドル(約1.5兆円)を超えたとされる。また、核融合産業協会(Fusion Industry Association)の調査では、主要53社への累計投資額が約97.7億ドルに達している。両者は集計範囲が異なるが、いずれも民間資金の裾野が急速に広がっていることを示している。

欧州でも動きは出ている。ドイツのスタートアップProxima Fusionは、バイエルン州から大型実証施設向けの支援を取り付けたと報じられており、核融合は「遠い未来の科学」ではなく「産業政策の対象」として扱われ始めている。

AI向けデータセンターの電力需要が急増していることも、クリーンエネルギーとしての核融合への期待を後押ししているとみられている。


「夢の発電」から「現実の事業ポートフォリオ」へ

今回の商社の動きが示唆するのは、核融合を取り巻く投資のステージが変わりつつあるという点だ。

以前は「2030年代に実用化できるか」という技術的な賭けの話が中心だった。しかし今は、素材の供給網、医療応用、中性子技術、産業転用といった周辺分野でも、実際の事業として先に収益化できる可能性が出てきている。商社が「発電会社」ではなく「素材企業」や「派生技術企業」に出資しているのも、その流れを反映している。

もちろん、核融合発電の商用化はいまだ確実ではなく、投資にはそれ相応のリスクが伴う。技術面でも、規制整備や製造コストなど解決すべき課題は多い。ただ、商社が狙っているのは、核融合発電の成否そのものではなく、その周辺で先に立ち上がる供給網と応用市場だ。「いつか来るかもしれない大波に備えて、今から周辺の産業を育てる」という発想は、長期の眼を持つ商社らしい戦略ともいえるだろう。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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この記事を書いた人

CFP®/1級ファイナンシャルプランニング技能士
公益社団法人 日本証券アナリスト協会認定
・プライマリー・プライベートバンカー
・資産形成コンサルタント
一般社団法人金融財政事情研究会認定
・NISA取引アドバイザー

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