3月11日、ペルシャ湾に滞在していた日本の海運大手・商船三井などが出資するコンテナ船会社ONEが運航するコンテナ船に穴が開いていることが確認された。船員にけがはなく、船は自力で航行できる状態だという。だが原因はいまだ不明で、政府や外務省は情報収集を急いでいる。
単なる船舶のトラブルには見えない背景がある。ここ数日、ホルムズ海峡周辺で日本関係の船舶が損傷を受ける事案が相次いでいる。
何が起きたのか
商船三井や国土交通省の関係者によると、3月11日、ペルシャ湾内にとどまっていたONEが運航するコンテナ船「ONE MAJESTY」で、船員が衝撃音を聞いた。確認すると、船の後部(船尾)に穴が開いているのが見つかった。穴の大きさや詳しい状況は分かっていない。
日本人を含む船員にけがはなく、船の航行にも問題はないと報告されている。
政府高官は「人命にかかわる被害はまったくない」と述べた。外務省幹部はNHKの取材に対し、「攻撃を受けたわけではないのではないか」と慎重な見方を示した。原因についてはいまも確認中であり、意図的な攻撃であるかどうかも含め、現時点では断定できない状況だ。
これが初めてではない
実は、同じ週に類似した事案がすでに起きていた。日本時間の3月4日、オマーン湾に停泊していた日本関係の船舶に損傷が確認されており、空から落下したと見られる物体によるものとみられている。
1週間足らずの間に、日本関係の船舶が2件続けて損傷を受けた形だ。それぞれの原因は不明だが、中東情勢が緊迫する時期に重なっていることは無視できない。
「ONE」という船とは何か
損傷を受けた「ONE MAJESTY」は、ONE(Ocean Network Express)が運航するコンテナ船だ。ONEは商船三井(東証プライム 9104)、日本郵船(9101)、川崎汽船(9107)の3社がコンテナ輸送事業を統合して設立した海運会社で、日本の主要海運3社が共同で運営する。
コンテナ船とは、工業製品や食料品など、あらゆる貨物を統一規格の「コンテナ」に積んで輸送する船のことだ。世界の貿易物流の大部分を担う存在で、日本が輸出する自動車部品や家電製品も、こうした船に載って海外へ渡る。
なぜペルシャ湾にいたのか
今回の損傷は、ホルムズ海峡の「内側」にあたるペルシャ湾で起きた。
ホルムズ海峡とは、ペルシャ湾とアラビア海をつなぐ幅30〜50キロほどの海の回廊だ。イランとオマーンの間に位置し、世界の原油海上輸送量のおよそ2割前後がここを通過するとされる。現在この海域では中東情勢の緊迫を受けて船舶の航行リスクが高まっており、「ONE MAJESTY」はホルムズ海峡周辺の安全保障環境が緊張する中、ペルシャ湾内にとどまっていた可能性がある。
日本は原油輸入の約90%を中東に依存しており、そのほとんどがホルムズ海峡を経由して運ばれてくる。ここが安全に使えなくなれば、日本のエネルギー供給に直接影響する。
「戦争保険」が示すリスクの高まり
こうした状況を、海運業界はどう見ているか。注目されているのが「War Risk Premium(戦争保険料)」の動向だ。
通常、船舶には標準的な損害保険がかけられているが、紛争地域を航行する際は、これとは別に「戦争リスク」に対応した保険への加入が必要になる。中東情勢が悪化すると、この戦争保険料が急騰する傾向があり、それが輸送コスト全体を押し上げる。
2019年にもホルムズ海峡周辺でタンカーが攻撃される事件が起き、その際は海上保険料と輸送コストが急騰した。今回の状況が続けば、似たような動きが出てくる可能性がある。
原油だけでなく、物流全体が揺れる
「ONE MAJESTY」はコンテナ船であり、原油やLNGを運ぶタンカーとは異なる。だが、この事案が示すのは、中東情勢の影響が原油輸送にとどまらず、一般貨物を運ぶコンテナ船にまで及ぶ可能性だという点だ。
タンカー、コンテナ船、LNG船と、さまざまな種類の船舶が被害を受ける状況になれば、影響は原油価格にとどまらず、輸送コスト、保険料、世界の物流全体へと広がる可能性がある。その先には、輸入品の価格上昇という形で、日本の家計にも波及しうる。
損傷の原因は現時点でわかっていない。しかし、1週間に2件、日本関係の船舶がペルシャ湾周辺で相次いで損傷を受けているという事実は、中東の緊張が「遠い話」から「実際の被害」へと変わりつつある現実を示しているかもしれない。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

